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聖女

コクバル帝国の魔王城址に向かう大魔王。

彼の周りでは3つの影がまるで陽炎が揺れかのごとく動いていた。

影のひとつが大魔王に話しかける。


「大魔王様……紫のバイオレットが勇者に敗れ、死んだようです。」


「うむ。我も奴の魔力が潰えるのを感知した。ニンゲンどもの勇者とやらもなかなか骨があるではないか。」


「ふん、紫のバイオレットはボクたち四天王の中で最弱。ニンゲンごときに敗れるなど上位魔族のツラ汚しだよ。」


「ねえねえ、ごはんまだー?」


「青のブルーの言うとおり、紫のバイオレットは我々四天王の中で最弱ではありますが、上位魔族なのも確か。勇者はそれなりの戦力と考えますが、早めに手を打ちましょうか?」


「いや、今は泳がせておけ。ゲームはまだ始まってもおらん。まずは勇者を迎える舞台を整えようぞ。」


「ボクも大魔王様に賛成かな。雑魚が雑魚に倒されただけ。慌てる必要もないさ。」


「ねえねえ、ごはんまだー?」


「では、魔王城を築く場所はいかがなさいましょう?」


「前回の魔王が城を築いた場所でよかろう。」


「そうだね。あいつが死んでまだ半年程度。魔素も十分残ってて過ごしやすそうだ。」


「ねえねえ、ごはんまだー?」


「前回の魔王が拠点としていたのは東のコクバル帝国という場所のようですね。」


「東のコクバル……か。」


「そのまんま、だね。」


「だーかーらー、ごはんはまだかってきいてるだろー!もうがまんできないぞ!ぱくりっ!」


「あ、青のブルー!こら、黄色のイエロー!青のブルーを口から出しなさい。」


「ばりぼり、ごっくん。もうのみこんじゃったもんねー。」


「ああ、青のブルーが食べられてしまった……。」


「四天王が早くも半分になってしまったか。まあ、よい。黄色のイエローは食べた相手の能力を自分のものにできる。人数は減っても、戦力はさほど変わっておらん。」


「大魔王様の寛大な御心に感謝いたします。私も死んだ2人の分まで働きましょう。」


(頼んだぞ、紫のパープル。今となってはまともな部下はお前だけなんだ。)




こうして、この世界に拠点を築く前に早くも2人の幹部に死なれた大魔王。

一方、勇者ルートヴィッヒは聖女の元を訪れていた。




聖女がいるダマシマス教の大聖堂はバナナイカ王国の首都からほど近い街にあった。

ダマシマス教はこのデカイ大陸の中で最も信者の多い宗教であり、大聖堂はその最重要施設だ。

勇者ルートヴィッヒのパーティーの一員として魔王を倒したことになっている聖女マリヤンはその功績から大聖女としてダマシマス教の中で教皇、枢機卿に次ぐ大司教と同じランクに位置している。

大司教が各地で教会を管理、普及活動をしているのに対し、眉目秀麗なマリヤンは大聖堂で信者たちのアイドル的な立場でダマシマス教の地盤を強固にしていた。




「今日はどうなさいました、世界を救済してくださった勇者様?」


大聖堂にある大聖女マリヤンの執務室に勇者ルートヴィッヒが訪れていた。


「せっかく教会に来られたのですから何か懺悔でもなさいますか?あら、勇者様に懺悔なさるようなことは何ひとつありませんわよね。例えば誰かの手柄を横取りしたりとか。私としたことが失礼いたしましたわ。」


ムッとした顔の勇者ルートヴィッヒを見つめながらマリヤンはうふふと口元を手で押さえる。

その指先の動きにつられて唇に視線が合い、勇者はイラついていたことも忘れて唾を呑み込む。

大聖女という役職にあり、体の線が隠れるゆったりとしたローブを纏いながらも、彼女にはどこか蠱惑的なところがあった。

しかし、このまま彼女にペースに乗せられてなるものかと、ルートヴィッヒは本題を切り出す。


「新しい魔王が魔界からやってきたことは聞いているだろう?」


「ええ。大魔王と名乗っていて、魔王より強いと自負しているそうですわね。怖いことですわ。」


マリヤンは勇者の問いに、怖いと言いながらもどこか他人事のように返す。


「俺は勇者として魔王を討伐する旅に出る。今度も協力してほしい。」


「お断りいたしますわ。」


「なぜだ!?キミはいつも教会から外に出たがっていたじゃないか!」


前回の魔王討伐の際、勇者ルートヴィッヒは当時から()()()()()()強力な聖なる力の持ち主として知られていた聖女マリヤンを勧誘した。

聖女マリヤンは二つ返事で仲間に加わった。


「キミは言ってたじゃないか。教会で籠の中の鳥のように飼い殺されるのは嫌だと。もっと自由に生きたいんだと!」


「ええ、私は自由にイキたかったのですわ。」


当時は地元では有名な聖女のだったマリヤンだが、少し離れれば無名と言っても過言はなかった。

だから、夜な夜な好みの男と遊び回ることができた。


「ですが、今の私は世界の大聖女と呼ばれ、有名になりすぎました。ですから、もう決して自由にはイケないのです。」


「そんなことはないさ!俺と一緒に大魔王を倒す旅に出よう。そして、大魔王を倒したら大聖女なんて肩書きを捨ててしまえばいい。そしたら、キミはどこにでも自由に行ける!」


正直、前回の旅で彼女は遊び過ぎたのだ。

遊び尽くしたと言ってもいい。

目ぼしい男はほとんど食ってしまった。

今更、自分をときめかせてくれる男などいないのではないかとマリヤンは思っていた。


(いえ、ひとりだけ……。)


マリヤンは思い出した。

長い時間、旅をしながら決して夜を共にしなかった男。

最初はちょっかいを出す価値のない男と見下していた。

中肉中背、顔もパッとしない。

着ている服はファストファッションの代表ゼネクロ。


しかし、あとで分かったことだが、彼は強かった。

勇者よりも、魔王よりも。

そして、股間には勇者のものよりも立派な聖剣を持っていた。

しかし、気付いた時には旅は終わっており、彼を誘うことは叶わなかった。


(魔王の攻撃すら弾き返す彼の肉体を愛撫したらどうなるのかしら?気持ちよさも感じないの?それとも戦う時と同じように人の何倍も感じちゃうのかしら……ああ、彼を思い出しただけでお腹の奥が熱くなっちゃうわ!)


一瞬のトリップから帰ってきた性女マリヤンが勇者を見つめ直す。


「ねえ、ルートヴィッヒ様。私も一緒に大魔王を倒す旅に出てもいいですわよ。」


「ほ、本当か!?」


自分の説得が効いたと勘違いして喜ぶ勇者ルートヴィッヒ。


(なんだかんだ言って俺のことが好きなんだろ、お前も。げへへ、旅の間はこのエロエロボディの聖女をたっぷり可愛がってやるか。)


「ひとつだけ条件がありますの。」


「条件?」


嫌な予感がした。


「ええ。この旅にラルクさんが一緒なら同行させていただきますわ。」


「ラ、ラルクだと!?」


「ええ、彼がいれば心強いですもの。だから、私の協力が本当に必要と思うのでしたら、ここにラルクさんを連れてきてくださいませ。」


そう言うとマリヤンはうふふと口元に手を当てたのだった。

大魔王には四天王の他にも六将軍とかそんな感じの部下がいるとかいないとか。

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