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年下って×××…  作者: 天城まと
7/7

想いって重い

「ふふ…。」

ほの暗い部屋、ベットの中で自然と笑みが溢れてしまった。

そっとベットサイドのテーブルに置いたプリクラを見て、また顔が緩む。

今日一日で、色んな事を体験した。

泣いてスッキリした春君に連れられて入ったゲーセンで、レースゲームやUFOキャッチャーをしたり、初めてプリクラを撮ったり。

二人に挟まれるのは緊張したけれど、形に残る思い出も悪くないことを知った。

爽やかな笑顔の春君と、緊張して笑えていない私。

その右端の方に小さく映り込んだ明君。

キレイだと言ってくれた時の照れて他所を見ていた明君と、ダルそうなのに惹き付けられるような眼差しを見せる時と。

かっこ良かったり、可愛いかったり。

「不思議な人…。」

はしゃいでいた春君に着いていくので精一杯だったのに、視界の隅で揺れるリング型の二つのピアスが気になった。

少し長い茶色い髪からチラチラと見え隠れする度に、胸が高鳴っていた。

あんな事を、耳を紅くして言うから。

意外にも甘党な明君に教えてもらって行ったカフェで、ケーキをご馳走になったり。

二人の買い物に付き合って、初めてメンズ服を見に行ったり。

色んな場所に連れて行ってもらって、今日は一段と疲れが出ていたのだけれど。

「眠れない。」

高揚した胸は落ち着かなくて、目が冴えてしまっていた。

こんな風に私も誰かの隣に立って、人並みに楽しいと思える日が来るとは思わなかった。

あんなに春君の隣は、私には不釣り合いだと思っていたのに。

今では、この居場所が無くなる事の方が怖いと思ってしまう。

でももし、春君が私に対しての気持ちがなくなってしまったら、私はもう隣に居る事は許されないのだろうか。

あの告白を白紙に戻したいと言われたら、私はもう一緒に居る意味は無くなってしまうんじゃないか。

高揚していた胸に、小さく黒いシミが広がる。

「ひっ!?」

少しの不安を覚えて体が震え出した時、普段鳴る事のない携帯が音を立てて軽く悲鳴が漏れる。

時刻は23時を回ったところで、こんな時間でなくても私に連絡をしてくる人なんて居ない。

誰だろうと起きあがって携帯を覗くと、短い文面が表示されていた。

「今日は楽しかったです。」

IDを持っていても、友達登録は0だったLINE。

そこに今日、二つの名前が増えて。

初めて届いた、その短いメッセージは明君からだった。

明君らしく、絵文字も顔文字もないそっけない言葉なのに、携帯を持つ手が震えた。

何か返事をするべきだと、脳を必死に動かす。

私も、また行こうね、楽しかったね、浮かぶ言葉は沢山あるのだけれど。

震える指が、動こうとしなかった。

バフッと枕に倒れ込んで、天井を眺めて今日一日を思い出す。

楽しかっただなんて、一言で片付けられる様なものではなかった。

でもそれは、私だけだったのかもしれない。

明君や春君にとっては、当たり前で普通の事だったのかもしれない。

私はこの年まで、なんてつまらない日々を過ごしていたんだろう。

ピリリ、ピリリと右手に握っていた携帯が鳴る。

画面には春君の名前が表示されて、慌てて通話ボタンを押した。

「こんばんは、遅くにごめんなさい。」

耳元で聞こえた春君の声は、少し緊張している気がした。

「大丈夫だよ、どうしたの?」

なんだかこっちまで緊張してしまって、声が裏返りそうなのを必死に堪えながら問う。

春君は今日は楽しかったと言ってから、また休みの日に出掛けようと誘ってくれた。

明君と二人ばかりに飽きてきていたし、私が居るだけで何倍も楽しく感じるんだと。

言葉一つ一つに、春君の優しさを感じる。

「でもいつか…二人で何処か行きたいです。」

他愛もない会話をしていたはずなのに、急に声のトーンが下がって。

返事が出来なかった。

「俺、桜華さんが好きです。」

あまりにも真剣で、息が詰まりそうな静寂。

何か言わなくちゃ、春君は変わらず私に気持ちを伝えてくれているんだから、私も応えなくちゃ。

頭では分かっているのに、気持ちが着いてこない。

そこで漸く、私自身が春君をどう思って居るのかを考えた。

私は隣に相応しくないのに、周りから罵声を浴びせられる様な容姿なのに。

「どうして…私なの?」

忘れるつもりでいたはずだった。

そう思っていたところにも、春君はすんなり入り込んできた。

私の気持ちを軽く乗り越えて、おいでと手を差し出して、春君という存在を強く伝えてくる。

どうして、そんなに素敵なのに私なんかを。

気になったら、聞かずには居られなかった。

「桜華さんは、私なんかって思ってるかもしれないけど…。」

そこまで言って、少しの間受話器から音が消えた。

「強くて、自分をしっかり持ってる桜華さんは…キレイです。」

聞いた事がある気がした。

何処でだったか、思い出せないけれど。

でも、初めてではないと感じる。

「早く、桜華さんに届く様な男になりたい。」

声が震えていた。

泣いているの?今、何を思っているの?

今すぐに側に行って、触れたい。

私の中に入ってくる春君が、今は遠くに居るようで。

好きだと言ってくれているのに、どうしてか私を見ていない様に感じる。

誰を見て、誰を思っているの?

「春君…。」

「考えて、もらえませんか。」

私の声を遮った春君の声は、もう震えていなかった。

重みを含んだ声は、私の脳内を木霊して揺さぶる。

ズシンと胸にのし掛かって、重みに耐えられなくなる。

息をするのも難しくて、目眩がした。

「また明日、いつもの所で待ってます。お休みなさい。」

プープーと耳元で聞こえたのと同時に、盛大にため息が漏れた。

深呼吸をして息を整えるけれど、鼓動がバクバクとうるさい。

今日は眠れる気がしない。

考えなければ、あんな春君の声は聞いた事がなかったし、それだけの気持ちを無下には出来ない。

もうこれ以上、私なんかで済ましてはいけないんだ。

きっと明日の朝会ったとしても、春君は変わらず笑いかけてくれるんだろうな。

簡単に答えてはいけない、しっかり考えて悩まなければ。

横になって、プリクラを眺める。

この笑顔が、ずっと傍にあったら。

絶える事なく、私の隣にあってくれたら。

「幸せ、なんだろうな…。」

目を閉じて想像するだけで、胸が温かくなる。

春君の隣で笑って、そこにダルそうな明君が居て。

そこまで考えて、チクリと棘が刺さった様に胸が痛む。

よくわからない感覚が襲って、もう一度プリクラに目をやる。

人を思って、人に想われて。

こんなに他人の事を考えたのは初めてで。

人と付き合っていくのは、難しいと知る。

「想いって、重い…。」

ぽつりと呟いた言葉は、静かな部屋に吸い込まれて消えていった。

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