572、真夜中の襲撃 9
現在、ユーリに『例のあの人』が憑依して、黒い球体の『穴』を消滅させようとしている。
あれからかなりの時間が経った時、俺は目の前の黒い球体に変化が起きていた事に気づく。
最初は気付かないほどの変化だったが、徐々に目に見えて小さくなっていっている。
だがその速度は、最初の頃から比べれば速くなったとはいえかなり遅く、俺の魔力が尽きるのとどちらが先か……って感じだ。
「まずいなぁ……これ、相当魔力持っていかれてる。」
俺が思わずそう零すと、ユーリの体が一瞬ピクリと動いた。
すると俺の吸われる魔力が、それまでの3分の2まで少なくなった。
「……もしかして、ユーリの体に負担かけているんじゃないだろうな?」
俺は眉間に皺を寄せ、ユーリに憑依している奴に向かってそう話しかけた。
すると奴は振り向きもせずに、淡々と口を開いた。
「君ばかりに負担をかけられない。少しはこの神竜にも負担させれば君が魔力枯渇で命を失うことにはならないだろう。なに、あともう少しの辛抱だ。」
「……。」
どうやらユーリにも負担させてこの場を乗り切ろうってことらしいが、俺から言わせれば奴が負担すれば良いんじゃないか?と思うのだが、それは出来ないのか?
俺は思わず目を細めて奴を見る。
すると奴は俺の方を一瞬チラッと見ると、深いため息を1つついた。
「……君の考えている事は全て私には筒抜けだぞ?」
「……。」
「まぁ、良い。私の力はそう無闇に使うわけにはいかないんだ。先程この神竜か言っていたように、私はこの世にあまり堂々と関与できないんだよ。滞在も長くはいられないしね。この短期間で私の力をそう何回も使えば、他の神に咎められてしまう。」
俺が心の中で考えていたことを、奴はあっさりと説明してくれた。
それなら……しょうがないのか?
だとしても、危機的状況になったなら、その時には使ってもらわないと!
俺が心の中でそう力を入れて叫ぶと、また奴は俺の方をチラッと見てため息をついた。
そして「……善処する」とだけ言った後は、もう『穴』を塞ぐことだけに集中しだした。
それから1時間もしないうちに『穴』はほとんど塞がり、現在はソフトボールほどの大きさになっている。
俺が「あと一息だ!」と応援をし出すと、奴は急に右手に銀色の魔力を纏ったと思ったら、その右手で『穴』を握り、一気に握り潰して霧散させてしまった。
……最後は呆気なかったな。
俺は呆然として奴の右手を凝視していると、ふとユーリの体が震えたと思うと膝から崩れ落ちた。
俺は慌ててユーリを支えて抱きかかえると、ゆっくりとしゃがむ。
どうやらユーリは意識が少し飛んだだけらしく、すぐに目を開けて俺の名前を呼んだ。
「とうした、ユーリ?何か体が辛いのか?」
俺がユーリにそう聞くと、ユーリは緩く首を横に振って「大丈夫」と小さく呟いた。
俺はそれを聞き、ホッとする。
良かった、この街も安全になって。
俺がホッとしている間に、どうやらセバスとスコットさんもこちらへとやってきたようだ。
「……無事に解決できたようだな?」
スコットさんが辺りを見渡し、それからそう呟く。
周りは少し瓦礫の山になっている所も存在しているが、それでも結界で守られていたこともあり、破壊された場所は限定的だ。
「そうだね。やっと落ち着いてついて過ごせそうだ。……今夜は疲れたなぁ。」
俺は皆の無事な姿を見て安心しきったからか、急に強烈な眠気に襲われる。
ユーリはとっくに俺の腕から抜け出して自分の足で立っていたので、急に目の前が真っ暗になった俺を支えてくれたのはそばまでやってきていたスコットさんだった。
「おっと!……大丈夫か、シエル?」
「……だ…大丈夫……なん…か急…に眠……くなった…だけ……。」
「……!?おい、しっかりしろ、シエル!」
すっかり意識の無くなった俺を、スコットさんはお姫様抱っこをして宿屋まで運び、ベッドに寝かしつける。
「今日はこいつ、相当活躍したからな。相当な魔力消費をしただろうから、今夜はしっかり寝かせておかないとな。」
「あぁ、そうだな。セバス、シエルをよろしくな。」
「了解いたしました。」
セバスはそう言うと、ベッドで横になってる俺とユーリを優しい目で見て、そう請け負った。




