569、真夜中の襲撃 6
ユーリと俺はゆっくりとその『黒い穴』へと近づいた。
先程の俺の魔法で周囲を一掃したので、今のところは黒い穴から魔物が出現する気配はない。
もしかするとこの辺りはかなり魔物がいたから、出てくる量が少なくなっていたのかもしれない。
俺達はその巨大な黒い球体の形をした『穴』を見上げる。
見れば見るほど、あの時と同じ物に見える。
その穴からは、あの時感じた程の危機感は無かったが、それでも胸を圧迫するような威圧感は半端ない。
一体、この先はどうなっているのだろうか?
「……にぃに、ここの魔物が少なくなったのなら、グリー達の所に向かってみない?」
俺が『穴』の先を想像していると、急にユーリが俺の手を引いてそんな事を言った。
確かに今は『穴』の先を考えるよりは仲間の無事を確認した方が良い。
俺はユーリに頷き、もう1つの広場へと走って向かう。
『穴』の近くでは途中で出会う魔物はほとんどいなかったのだが、広場に近づくにつれて徐々に魔物が増えていった。
グリーさんがいるとはいっても、流石にドラゴンへと変化することはできないだろうから、なかなか討伐するのは大変なんだろう。
広場にもうすぐといった所で、リッキー達に俺達が来たことを知らせるために俺は大きな声を張り上げた。
「リッキーっ!!俺達が加勢しに来たぞっ!」
すると俺の声を聞いたグリーさんが背中から翼だけ生やしてこちらへとかなりのスピードで飛んできた。
「ほんまやっ!シエルさんとユーリ様がおるでっ!」
俺たちの姿を確認したグリーさんはとても嬉しそうに空を飛び回っている。……その姿、見つかってもいいの?
「そんな事してる場合じゃないと思うんだけど?」
ユーリはとても冷めた目でグリーさんにチクリと言った。
それを聞いたグリーさんは少しばつが悪そうな顔で頭を掻くと、すぐに地上へと戻った。
広場にはかなりの数の魔物がひしめき合っており、これを武器だけで討伐するのは現実的ではないので、魔法で一掃できないかと考える。
「リッキー!そっちって誰か結界張れるやつ、いる?」
「いるわけ無いだろ!?仮にいたとしても、お前の魔法を受け止められる結界を張れるやつはいないって!」
俺の言葉に何かを察したリッキーは、「無茶をするな!」と言ってきた。
「じゃあグリーさん!俺たちの方に向かって広範囲魔法で何とかできませんか?」
「やってもええんやけど、それをするとこのへんは壊滅状態になるで?」
俺の「魔法でやっちまえよ!」という作戦は、グリーさんからすれば「広場だけじゃなくて他の建物なんかも巻き込む大惨事になる」と却下されてしまった。
「いや、大丈夫ですよ!他の建物には極力被害が出ないように、広場を結界で囲みますから!」
俺はそう言うと、宣言通りに広場を丸ごと包むほどの結界で覆う。
それを見たグリーさんからは「よおやるやん!これなら広範囲魔法をやっても大丈夫や!」と笑顔で言われた。
俺はその言葉を聞き、改めて俺とユーリに結界を張る。
本当はリッキー達にも張りたかったんだけど、広場にいる魔物のせいで全く姿が見えないから、遠隔で結界を張るのは無理だった。
「グリーさん!リッキー達には結界張れないから、魔法はこっちに向かって放ってね!」
「了解してん!」
それからすぐにグリーさんの強烈な広範囲の風魔法が放たれた。
あまりに威力が凄いので、広場にいた魔物だけではなく、広場にあった色々なものが竜巻の刃によって粉々にされて宙を舞っていた。
……これ、リッキー達に本当に影響ないの?
しばらくするとその風魔法による竜巻は落ち着き、宙を舞っていた破片は全て広場の中央にこんもりと山積みになっていた。
その影からリッキー達3人とグリーさんが現れる。
……良かった、リッキー達は無事だったね!
俺はその中央にまとまっている破片の山をどうしようかと考えていると、先にエミリーさんが火魔法で燃やし始めた。
そっか、以前スノービークでも魔物を集めて処理をしたって聞いたことがあったね!
そこで俺はエミリーさんに倣い、その破片の山に向かって強力な火魔法を放った。
するとその山は燃えやすかったのか、あっという間に灰と成り果てた。
俺がその灰をどうするか悩んでいると、まるで春一番のような強風が吹き、その灰をあっという間に跡形もなく消し去ってしまった。
「……。誰だ、今の風を吹かせたのは?」
俺はポツリとそう呟くと、周りを見る。
するとグリーさんと目が合うと、勢いよく目を逸らされた。……犯人だね?
いや、別に良いんだよ?
魔物が何らかの原因で灰から復活さえしなければ。
確か神官の時は、万が一にも復活すると悪いからって灰を結界の器に閉じ込めて腕輪に収納していたんだよね。
とりあえず俺はグリーさんを見ながらため息をつくと、この場にいる仲間と今後の話し合いをすることにした。




