「すとーりーもーど」 「2.ぶるーばーど」
「もてもて~!」
私が頭の上の小さな青い鳥、のような生き物をつまみあげるとそれはぱたぱたと羽のようなものをはばたかせ抵抗する。
それでいて磁力でもあるかのように私の頭の上に戻ろうとしている。
状況がのみこめない私はそのいきものをとにかく頭上に戻した。
「もてー」
青いそれは私の頭の上に戻ると途端に落ち着きを取り戻したように安堵の声を漏らす。
突然現れたそれに訳がわからない私だったけど、でも、不思議と嬉しい気持ちが込み上げてくる。
きっと普通なら頭がおかしくなって幻覚をみているだとか、そういうことを言うんだろう。
でも私が抱いた現状に対する感想は全く違うものだった。
寝起きで微睡んでいた意識は次第に覚醒していく。
「本当に……、いるんだ!!ふしぎなものは!!」
青いそれが頭に乗った時から私は今までになく幸せな気分になっていた!
だってこの「ふしぎないきもの」は突然現れて、ちゃんと触れれる!
ちゃんと私の前にいる!!
このこはきっとあの時私が出会った「マーニー」と一緒なんだ!!
直感的にそう感じた。
私はそれをおでこの上につまんで移動させ、目線を合わせる。
「ねえねえ!あなた!」
「もて?」
「あなたおしゃべり出来るの?」
「もて?」
青い鳥は私の言葉に反応を示すものの「もてもて」という不思議な鳴き声を発するばかりだ。
「名前はなんていうの?」
「もて!」
「なら『もてちゃん』だね!」
「もて!」
久しぶりの感覚だった。
まるで何も知らなかった子供の頃のような。
私は純粋にそれに出会えたことを嬉しく思った。
***
「あなたがなんなのか調べなきゃね!」
「もて?」
私は「マーニー」のことを探していたから都市伝説や妖怪のようなものについてはそれなりに知っている。
学生時代は如月駅を探しに列車の旅もした。
大学で文学部だった私は卒業論文で「世界各地の猫の伝承」についても研究した。
本当は「マーニー」のことを調べたかったけど学生時代は文献が見つけられなかったから仕方なく「猫」を調べた。
格好付けて言っちゃったけど、記憶力が悪く、要領も悪い私は特別熱心に勉強していた訳じゃないの。
子供の頃に出会った「マーニー」にただただ私は会いたかった。
……社会人になってからそんなこと考える余裕なかったんだけどね。
でも今こうして『もてちゃん』に出会えて、私はなんだかとっても元気がでてきた!
スマホで「もてちゃん」について調べる。
しかしもてもてとなく靑い鳥、そんな情報どこにものってなかった。
「むー、なんで誰もあなたのことを知らないの?もてちゃん?」
「もて?」
もてちゃんは私の問いかけにもぞもぞ動いて答える。
私の寝起きでぼさぼさの髪の中に体を埋めているようだ。
私の頭の上が気に入ったみたい!
私はそれを対してなんだか嬉しいことのように感じた。
「そうだ!あなたのことみんなに聞いてみよう!」
私はもてちゃんをつまみ、顔の前に持ってくる。
「もて!もて!」
もてちゃんは私の頭から離れるとおしゃぶりをとった赤ん坊のように必死で抵抗してくる。
「ごめんね、もてちゃん!じっとしてて!」
私はもてちゃんにスマホを向ける。
このこの姿を写真にとるためだ。
画像さえあればネットの掲示板に張り出して知ってる人を探せるはず!
「もてー!」
ごめんね、もてちゃん。
もう少し我慢してて!
カメラのアプリを起動し、もてちゃんにそれをむける。
しかしその画面に映し出されたものは空を撮む私の手だけだった。
スマホを置けば確かに指先には「もてちゃん」がいて、触った触感があって鳴き声も聞こえる。
なのにスマホのスクリーンにこのこの姿はどうしても映らなかった。
私はそれを知ってちょっとした放心状態になり、もてちゃんを頭に戻す。
やっぱり肩が重い。
本当に私の頭がおかしくなっちゃただけなのかな?
「……もてもて?」
落胆する私の頭をさするような感触がする
小さな小さな手、鳴き声から察するに「もてちゃん」が私を撫でてくれているんだ。
そうしていると私は子供の頃にお父さんに頭を撫でてもらった、いいようのないの安心感を思い出す。
スマホの画面に映らない「もてちゃん」がなんなのか、私にはわからない。
けどその安心感からこのこが私の側にいる確かな実感を感じることが出来た。
……うん、元気ださなきゃ!
出会ったばかりのもてちゃんはなんだか私に力をくれる。
親に内緒で仕事を辞めて俯いていた私に元気をくれる。
まだまだ肩は重いけど起き上がらなきゃ!
毛布から身を起こし、ようやく私は起き上がる。
「おはよう私!おはようもてちゃん!」
「もてもて!」
久々に気分のよい朝だった!
ピンポーン!
私が起き上がるのと同時にチャイムがなる。
「……はーい!?」
いつもなら居留守を使う私は気分のよさからかカメラ付インターフォンへと駆け寄った。
私のすむアパートはの一室でベットからそこまで距離はない。
私が返答を返すとインターフォンの画面に外に立つ女の子の姿が映った。
「秋谷冬華さん、だね!あなたの頭の上やつについて話があるんだよねー!」
目測120cm程度の小柄な姿に腰まで伸びた紫色の長い髪、青い軍服のような衣装、どこからどうみても普通の人ではない。
それに今現れたばかりのもてちゃんのことを知っている……?
私が解答に悩んでいるとカチャリと玄関の鍵が開く音がした。
その音に続いてインターフォンから音声が流れてくる。
「私はメア、メア・スクイレル!超絶可憐最強無敵の女の子さ!!」
彼女の言葉の後に、玄関の開く音がした。