「すとーりーもーど」 「1.にゅーげーむ」
……。
ぼやけた意識の中で私は会社の机に向かって歩いていた。
はっきりとはわからないけどきっと昼休み明けなのだろう。
まわりからコソコソと上司の声が聞こえてくる。
分厚い化粧を塗った女上司二人と疲れた頭の男性だ。
「ねぇ、この書類の処理なんで遅れてるの?」
「また秋谷さんがやらかしたらしいわよ?」
「またなの?どうしようもないわね」
「まぁ秋谷さんだからね」
「ふふ、確かに」
女上司二人の会話に男性が声を挟む。
「おいおい君達、陰口はいけないよ」
「でも係長、あのこと一緒に入った中途採用のこはもっとうまくやってるのに、あのこはどうしようもないポンコツなんですよ」
「そうですよ、口下手でろくにしゃべりもしないし」
「……まぁ君達が言うならそうかもしれない」
「ほら、やっぱり係長だってそう思ってるんでしょ!」
「言うなら聞こえないようにしろってことだ、今どきパワハラだのなんだのうるさいからな」
「はいはーい」
三人の会話を聞きながら私は私の席につこうとする。
しかし私の机にあるはずの椅子はそこになかった。
「あ、ごめんごめん!会議で足りなかったから席借りてたんだ秋谷さん」
煙草休憩から帰ってきた煙臭い同僚達が私に声をかける。
悪意のない彼らの言葉に私はその場で立ち竦んでしまう。
あの煙の匂いが嫌いな私は彼等といると息苦しい。
「何をつったているんだ秋谷!!」
追い討ちをかけるように誰かの声が聞こえてくる。
「無駄な時間を過ごすな!!」
その人物の言葉に私は動けなくなる。
「そんな態度が社会人に通用すると思うな!小学生からやりなおしてこい!!」
彼の言葉に私の涙ぐんだ視界は暗転し、場面が移り変わる。
***
「……ありがとう。でも大丈夫。」
懐かしい誰かの声がした。
「それなら私行くね。あなたと話せて楽しかったよ。」
小学生の時、一度だけ出会った儚げな女の子。
……あのこ、なんて名前だったっけ?
一度しか会えなかったけど、私は確かにあの子のことを覚えている。
……あのこの名前は。
……そう、確か。
「ちょっと、待ってよマーニー!!」
***
私が叫び、手を伸ばしたところで景色は薄明るい小さな部屋に移り変わる。
日用品とインスタント食品とで少しだけ散らかった私の部屋だ。
それと同時に私はこれまで夢をみていたことに気付く。
目を泳がし枕元にある午前10時を指し示す時計を発見する。
私は少しヒヤリとしたが5秒間の沈黙の末に冷静を取り戻す。
「……もう6時に起きなくていいんだ」
私はうわごとのように呟いて体を起こす。
「肩……、重い……」
半身だけ起こした私は手近に置いていたスマホを掴み、その液晶を見つめる。
黒い画面に目元に隈の出来た不細工な私の顔が映る。
それをごまかすようにスマホを起動しネット検索画面を開く。
「花子さん……、実在……」
打ち込むワードをつぶやきながら私は検索する。
検索されたページはいつも見慣れたものばかりで代り栄えしない。
私が通うオカルト掲示板も今では三日置き程度でしか更新がなく、新しい情報はない。
「はぁ……」
深いため息がでる。
あの時出会った女の子、マーニーを私はずっと探していた。
けど誰に話しても彼女のことを信じてくれる人はいなかった。
おかしなことを言うやつだと私は煙たがられ、元々人と話すのが苦手な私は尚のこと肩身の狭い想いをしてきた。
それは社会人になってからもそうで、ついこの間小さな民間企業の事務職を辞めた。
それでも私は彼女に会いたかった。
あの時、独りぼっちだった私に笑ってくれた彼女に……。
色んな思いがこみ上げて視界が霞む。
ぼやけた世界の中に頭上から新しい声が聞こえてくる。
「……もてもて?」
それは聞いたことのない不思議な鳴き声だった。
「……え?」
私は声のする方へ頭を向ける。
そこにいたのは小さな青い鳥だった。




