「すとーりーもーど」 「3.えんかうんたー」
「どうもお姉さん!こんにちわー!いい天気だよね!」
当たり前のように部屋に入ってきたのは小学生位の小柄な女の子。
腰まで伸びた紫色の長い髪をなびかせ颯爽と挨拶をかわしてくる。
見た目通り子供のような高い声で、それでいてわざとらしいあどけた口調。
青い軍服のような帽子と上着を身につけ、同じような背丈の女の子がまずはくことはない分厚いブーツをカツカツと鳴らせ、確実に私の部屋に侵略してきた。
正直頭の整理がつかない。
もてちゃんに出会ったばかりの私はいくぶんか非日常に寛容的になれていたのに、その女の子の存在感は圧倒的だった。
ここは私がしばらく引きこもっていた私の部屋なのに彼女が一人いるだけで他人の家になってしまったかのような、彼女の存在が私の部屋を、私の意識を塗り潰していた。
「……なんなの、あなた!?」
なんとか声に出せたのはその二言だけだ。
ニヤニヤと笑顔を浮かべる彼女に返せたのは驚嘆の二言だけだった。
「まぁまぁお姉さん、お姉さんに用はないからさ!」
紫髪の女の子は一歩一歩確実に私に近寄ってくる。
「私が欲しいのはあなたの頭のそれ!……あ、あと肩にはえてるやつも欲しいな!」
ニヤニヤ顔のその子から私は逃げるように後退る。
でも私の後ろにあるのはさっきまで体をうずめていたシングルベットだけだった。
逃げ場がないのは明確だったの。
助けを呼ぼうにも私はついさっき「もてちゃん」が現れるまで「独り」だった。
「ねぇお姉さん、……それ、ちょうだい?」
もてちゃんを指差す彼女の手が次第に私を追ってくる。
背丈は私よりもだいぶ低いはずなのに、蛇が近寄ってくるように静かに、それでいて確実に迫るその手に私は恐怖した。
……でも!
……折角出会えたマーニーへの手掛かりなのに、ここでもてちゃんを手放すのなんてごめんだ!
「もてもて……」
もてちゃんも怯えている。
……ここは勇気をださないと!!
「……だ、だめ!もてちゃんは渡さない!」
「もてぇ!」
私は頭に手をあててもてちゃんを庇う。
子供相手になにやってんだろうとは思う。
でも適当な言葉をすぐに選べない私は、ただただ彼女に意思表示をするほかなかった。
「そう。なら、そっちからもらうね」
彼女は何の動揺も示さずに、もてちゃんに伸ばしていた手をそのまま私の肩に向ける。
「……え?」
彼女は私の前で軽くジャンプしながら私の肩の上で何かを掴む素振りをみせると、急に手を引いた。
「おぉ結構立派に育ってるね、このなすび!」
彼女が空を掴んだはずの手には一本の植物が握られていた。
途端に私の体は糸がきれたように項垂れ、膝をつく。
「……あぁ、あぁ」
……なんでだろう、急にどうでもよくなっちゃった。
「――もてもて!!」
……なんだかもてちゃんの声が遠い。
……視界が霞む。
……なんだろう、やる気がでない。
「――あ、チャンスじゃん!そこの青いのも貰うね!」
膝をつく私の頭に彼女の手が伸びる。
「――もてぇ!」
あぁ……、もてちゃんが……、とられちゃう。
折角お友達になれそうだったのにな。
「――もてぇぇ!」
……もてちゃんが離れていく。
その声を聞いた瞬間に今朝みた夢がまた呼び起こされる。
「そんな態度が社会人に通用すると思うな!」
あの怒声がまた頭に響く。
苦しい。
苦しいよ。
苦しいよもてちゃん。
独りになるのは。
また独りになるのは。
……苦しいよぉ。
胸焼けと吐き気が混じって喉元が熱くなる。
「――? ――大丈夫?お姉さん?」
突然現れた「メア」って子が今どんな顔をしてるかもわからない。
「……うう゛ぇ」
私はただどうしようもない気分の悪さから自分の喉元を抑えた。
そうすることで楽になるわけじゃないけど、……けど押さえなくっちゃどうしようもなかった。
こんなことをしたって誰かが助けてくれるわけじゃないけど。
……もうどうしようもなかった。
……もう独りは嫌だよ。
「わぁぁぁ!!!!なんだおまえ突然現れて!!!!」
女の子の叫び声でふと我に返る。
「……」
顔をあげると、そこにはまた背の高い「知らない誰か」が立っていた。




