二章2-3 前哨戦前夜祭(3)
祭が終わりを迎えたのは夜が明け日が昇るころだった。
料理が尽きたからとか酒やジュースがなくなったからとかではない、統制された地響きと軍靴の音が近づいてきたからだ。
最初に気付いたのは兎のように長い耳を持った『非人間』だった。ぴくんと長い耳が何かに反応して動き、全員に静かになるように叫んだ。
腕が鷹の翼になっている非人間が音のする方を見つめると、人間の肉眼では捉えられないほど離れた場所に軍隊を発見したのだ。祭どころではない、すぐに反撃の準備をしなければ、このまま討ち滅ぼされてしまう。
迷い込むゴロツキがいないわけではない場所にあるため、いつもなら地下へ潜りやりすごす。しかし、今回のように軍隊がくると隠れることはできない。
名も無き村は国の端、他国へ行くにしても絶対に通らないような完全な空き地に作られている。軍隊ならば用事でもないかぎりこない。つまりここにきているということは用事があるということ、ここで用事といえば名も無き村において他にないことだ。
そう名も無き村へ敵の軍隊が向かってきている。地図上でも何も無いとされている場所に、何も価値の無い砂漠地帯へ。
「考えたくもないことですが、ここに私達がいることを報告した者が必ずいます」
ディグマンは三人の王族に傅いて言う。
「予定より早くなりましたが、これより我ら名も無き騎士一同、王宮へ向かいます」
「よし、私が先頭に立つ。非戦闘員は下がれ」
各々行動を始める。その時にはドミニクの姿は既にどこにもなく、コルネリウスは先頭に立ち騎士達と話している。その輪に入れずにいるのはアンジェリカだ。
ルナも輪を離れてアンジェリカのところに行く。
「……考えていることは分かる。しかし今は迎え討たなければあなたもここの皆も護ることができません」
「分かっているのです。……そのつもりなのです。ですが、やはり……これはウルのしたことなのでしょうか?」
「ああ、間違いなくウルが関わっている」
ウルが寝返っているのかもしれない。アンジェリカの中ではそれが心配なのだ。寝返ってないにしても敵に回っていることに変わりはない。
「だけど、これはウルが生きているということでもあるはずだ。ウルの真意を知ることはできないが……あのウルが俺達のことを教えてやられるような奴じゃないことは俺がよく知ってる。だから俺を信じてアンジェは自分のことだけを考えてくれ」
「────はい」
小さな声でアンジェリカが返事をしたところで、ルナのところにコルネリウスがやってきた。
「ルナ。我が妹の友にして騎士の子。妹を頼んだぞ。おとなしそうな子だが、誰かのためになると無茶をよくするのだ。決して目を離さないように。体が先に動く子なのでな」
「お兄様! 私も成長しているのですよ! もうあんなことにはなりません!」
「違う! 兄は妹のことを心配しているだけだ! 頼む、頼むから無茶なことだけはしないでくれ……妹が傷ついている姿をもう見たくはないのだ」
そう言い、慈しむようにアンジェリカの頭を撫でる。少しむくれているアンジェリカだが撫でられるのは嬉しいようで、少しだけ顔が緩んでいる。
ルナは二人のことを眺め、アンジェが過去に何をしたのかを気になったが、それを置いてコルネリウスに礼で答える。
「必ず、護りぬきます」
「よし。では迎え討つ。私に続け!」
コルネリウスは身を翻し歩きだし、その後を騎士達が続く。
その最後尾をアンジェリカとルナが続いていく。戦闘の祭が始まろうとしていた。




