二章2-2 前哨戦前夜祭(2)
祭は盛大に行われた。
村に残されていた備蓄の食料を殆ど使い切り、食って飲んで叫んで暴れる。そんな滅茶苦茶で楽しい祭、もとい宴会となった。
打ってでる以上は後に残すものは必要ない。どのみち破棄しなくてはならなかったのだから。国が乗っ取られている以上、名も無き村に国から秘密裏に送られていた物資がない。砂漠のような土地では作物を育てることなどできる筈もなく、自活できないのだ。
アンジェリカもコルネリウスもドミニクも、ルナもディグマンも名も無き騎士達も全員入り混じって祭を楽しんでいた。
その祭を空の上から見下ろす影があった。
「楽しそうだな」
「混ざりに降りても構いませんよ?」
「否、別れが辛くなる。あのまま一時の楽しみを心の底から堪能してほしい」
「さて辛くなるのはあなたなのか、彼女達なのか……あなたが別れを惜しむとは思えませんが」
「論ずるまでもない」
語る二人は滞空を続けて旋回する。
「戻りましょうか、ウル」
「もう少し……いや、戻ってくれフェザー。俺が居る場所では無くなったからな」
「俺、達、でしょうに」
翼をはためかせ王宮へ進路を取る。二人分の重量を大きな翼は軽々と持ち上げ、高度を上げてからゆっくりと斜めに滑空を開始する。
滑空と行っても普通に走るよりも速い。さらに障害物を無視して一直線に行ける分走るよりも速いことだらう。
「本当にやるおつもりですか? あなたを救おうとする彼女達を裏切ると」
「否。性分でな、裏切りなどはできん。私はただ国を護るだけだ」
「そうでしたね。それが騎士でした」
フェザーは納得して、でもと続ける。
「本当によろしいのですか、彼女達と敵対することになりますよ? あなたがどう思おうが今のウルは彼女達の敵ですよ」
「構うものか。頼まれたことは実行する。敵対するなとは命令も、頼むこともされなかったのだから」
「私が頼んでもダメ?」
「……止めてくれ。お前の頼みを私は無視できない」
そう言い、ウルは腰に下げている剣を触る。
誓いを捧げている剣は常に下げている。忘れないために、常に考えているとさらに誓うために。
飛んでいる空は広く、しかし見える世界は狭い。誰であっても人間は自分の目で見える範囲でしか世界を認識できない、ウルだってその限りに入る。
いくら超常的な力を持っていようと、当然のように崇高な誓いを持っていようと人間である以上は人間の見える範囲を超えることはできないのだ。
「あっちは明日にでも攻めてくるだろう。ならば先に手を打っておかねばならん」
「本当に、あなたという人には残酷なほどに迷いがないですね」
「……時々、俺より『非人間』の方がよほど人間らしいと思うことがある。差別されて泣き、擁護されて喜び、共に感情を分かち合い、俺よりも人間らしく生活している。正直に言うとお前達を羨んでいた、俺は自分の意志で生きることはできなかったんだから。常に国のため、主のため、友のために生きてきた俺に自身の生きる目標などなかったのだ」
もしも『非人間』の枠組みが表面に出ている異常だけでなく、内面にも適用されるのであれば、ウルは確実に『非人間』だ。ウルの持つ異常はただ一つ、『騎士』という生き方。
それ以外に持ち合わせがない。
「……それでも私は人間に憧れますけどね」
「だろうな。さて、話は終わりだ。未練はないな?」
「未練など。私は今あなたの傍にいる。満足しかありませんよ」
まあいいとウルは答えた。
二人の下には整列された数百人の軍人が整列している。
彼らの前に立つ。後ろに立つフェザーは少し離れてウルを見ていた。そのウルが言う。
「行くぞ。戦争だ」
足音が一つ。きっちりと数百人分が重なった音は地響きと共に響いた。




