二章2-1 前哨戦前夜祭(1)
アンジェリカがルナと出会ったのは地下を出て小屋へ向かう途中だ。
「ルナ! 探しましたよ」
「すまない。用事があって小屋に行っていた。何か用か?」
革袋で包まれた両腕を後ろで交差させたルナは首を捻る。
「いえ、特に用があったわけではないのですが、何をしていたのかなって」
「……アンジェ、祭は好きか?」
的を得ない返答に今度はアンジェリカが首を捻るが、好きだと告げる。
「よかった。明日から祭をすることになった」
「いきなりですか? 準備とか……」
「早いに越したことはないことだからな」
脈絡を無視して進んでいく話にアンジェリカはついていけない。地下へと帰るルナの後ろについて歩くだけだ。
「どうして祭をするのですか? 何か良いことでもありましたか?」
「楽しいからだ。……俺はアンジェに対して嘘はつけない。できれば、詳しいことは聞かないでほしい。アンジェを危険に巻き込みたくない」
「そうですか……」
アンジェリカは革で包まれたルナの腕をとり引き留める。
そして自分のほうに向かせたアンジェリカは、ルナの言葉を聞いたうえで強い口調で言う。
「なら聞かなくてはなりませんね。話してください」
アンジェリカにとってはただのお願いであっただろうが、ルナにとっては命令に等しい言葉だ。
深いため息を一つ吐いたルナは、膝をついてアンジェリカを見上げた。
「明日、我ら騎士は王宮に攻め込み、これを落とします。危険です。アンジェリカ様を連れていくことはできません」
「っ! それを聞いて私が、そうですかと納得すると思いますか!?」
無論、ルナはそんなこと思ってはいない。
「私も行きます。ルナやディグマン様達だけに危ないことはさせられません!」
一番危惧していたことだ。このお願いに、この命令に、ルナは逆らうことはできない。
「……私から離れないでください。この剣の届くかぎり、アンジャリカ様に降りかかる危険を斬り払います」
逆らうことができない以上、譲歩する他ない。これによってルナが戦闘に参加することは難しくなってしまうが、ルナにとってはアンジェリカの騎士であることの方が重要であるため受容できる。
アンジェリカはルナの譲歩を受け入れ、話を戻した。
「ところで、それと祭にどのような関係があるのでしょうか?」
「この祭で俺達はこの村を放棄する。私達の存在が知られる以上、もう国に居座り続けることは、してはならない」
「何故……ですか?」
「俺達は元々この国にはいない存在だ。いない者はいてはならない」
名も無き村の、名も無き騎士の、非人間。彼らは延々と続いてきた騎士道を守り続けるつもりだった。
そしてそれはアンジェリカでも否定してはならない。かけるべき言葉も見つからず、喉で詰まった空の言葉を飲み込む。
アンジェリカの心中を察するルナは、しかして騎士であった。
「俺はアンジェの友だ。────私はアンジェリカ様の傍を離れない」
一度は別れた。別れるしかなかった弱い自分を変えて強くなった。ならばもう別れない。
自分の腕に自信を持った、誓いも自分の腕で立てた。斬ることでしか役立たずな腕にたった一つの役割を持たしたアンジェリカを護るということを。
「まずは祭だ。後のことは考えず楽しもう」
「はい……そうですね。私も楽しみます!」
互いに手放さないために、互いに腕を取り合って地下へと戻っていった。




