二章1-9 異端の王子(4)
名も無き村の地下でアンジェリカが歩きまわっていた。ルナを探しているのが見つからない。
探し人の代わりにアンジェルジャが見つけたのはドミニクだった。ドミニクは最初連れていかれた部屋に一人で地面に何か書いているところだった。
「お兄様、何をしていらっしゃるのですか?」
「アンジェ! 僕は直接戦うことができないからねー、直接以外で戦うことにしたんだよー」
「どういうことですか?」
「アンジェは何も気にしないでいいよ、僕達がまとめて終わらせてあげるから」
ドミニクはアンジェリカの頭を優しく撫でる。
「……ルナはどこですか? ルナの居場所を教えてください!」
頭を撫でられているアンジェリカは探し人を思い出して聞く。撫でる手が一瞬止まる。
ドミニクは逡巡した。教えるべきか否か。しかしその考えはすぐに打ち消される。アンジェリカに対して言葉を濁すことはできても隠し通ることはドミニクにはできない。
「外の小屋にいるよ。すぐ帰ってくるだろうし、部屋で待ってたらどう? 帰ってきたら僕が教えてあげるから」
「いえ、小屋にいるならそこに行きます」
制止の言葉を無視してアンジェリカはドミニクに背を向けた。
が、何か思い出したのか立ち止まり振り向くことなく言葉を投げる。
「お兄様、何か悪いこと考えておられませんか?」
「どうしてそう思うの?」
投げかけられた言葉に、ドミニクは何げなく返した。心の内で何げなさを装うことに苦労しながら、それを欠片も見せずに。
「昔のお兄様と同じ顔をしておられました。……お兄様を嫌いになったことはありませんが、私は今のお兄様の方が好きです。どうか変わらないでくださいね」
「大丈夫だよアンジェ。僕もアンジェが大好きだから」
即答し、出ていくアンジェリカを見送る。
ドミニクは地面に書いていたものを見下ろす。つい先ほどの返答には言ってないことがある。
「ごめんね。でも大丈夫。アンジェに嫌われる僕を、僕が見せるわけないんだから」
書かれていたものは王国再建の作戦の数々。使えるものは何でも使い、どんな汚い手も勧んで引き受ける。国を再建した後のことも考えておかなくてはならない。
ふうとドミニクは息を吐いた。遠くを見通すのはドミニクの仕事だ。近場の問題はコルネリウスが片づけてくれる。ドミニクはコルネリウスのことを嫌ってはいるが腕については、彼の身に宿る剣の才能には信頼をおいている。だからコルネリウスにはできないことをドミニクがする、短絡思考の兄が細かいことを気にして動けるとは思っていないからだ。
「本当はこんなことだってしたくないんだ。僕は遊んでいられればいい。でも向こうから売られた喧嘩を無視できるほど大人でもない。ハロルド、君が誰に……どの国に、喧嘩を売ったか思い知らせてやる」
ドミニクは不気味に嗤う。それはかつて、コルネリウスと王位の継承権をかけて殺しあっていたときの笑み。アンジェリカが好きにも嫌いにもなれなかった狂気に満ちた笑み。
ドミニクの戦いはここから始まるのだった。




