二章2-4 前哨戦前夜祭(4)
騎士達の中で剣を持って戦う者は少ない。彼らは騎士であると同時に『非人間』である。武器は先天的に持った人ならざる異形がある。
故に戦闘において騎士道とは程遠く、軍隊のように統率されていない。始まった瞬間から外道の戦いだ。
最初の一手は、村に元から用意されていた迎撃用の罠だ。
コルネリウスが叫ぶ。
「やれ!!」
大地が激震する。一区画をまるごと落とす大穴が敵軍隊の後方に現れた。
すぐにできる大きさではない。まるでそこには最初から地中がなかったかのような大穴だ。地下にある集落からは遠い、もともと迎撃するために造られたものなのだ。
敵の体制が崩れる。戦闘中に数人が一気に切り離されたとしても同様は警備ですむだろう。しかしまだ距離はあり有り得ないことが起きれば訓練されていても動揺してもおかしくない。
何が起こったのかと確認する暇を、コルネリウスは与えない。見えるようになった位置から一気に駆ける。
「シッ!」
剣が走る。騎士ではないとはいえ、軽い装備は身に着けている。コルネリウスの剣は軽い防具を無視して体を斬る。研ぎ澄まされた動きは一つの舞のようであり、剣舞の頂点が敵の中へ滑りこんだ。
一戟が重たく何より鋭い。おおよそ鍛えられた剣技の果て、剣に愛され剣を愛したコルネリウスが辿り着いた何者も入ることのできない領域だ。
敵は接近を避けて弓を使い始める。が、コルネリウスは飛んでくる高速の矢を斬り落としていく。集中して何十本もくる矢を問答無用に落としていく。さすがにすべてを落とすことはできないが、致命傷に刺さる矢は確実に落としている。
一人で戦っていたのならジリ貧で追い詰められ、やがて矢の雨に身を晒すことになっていただろう。
だが、コルネリウスは一人で戦っているわけではない。人にしてあまりにも逸脱した雄姿に目を奪われてしまうのは仕方がないことではあるが。
「どっせええい!!」
声と共に敵の足元から現れたのは、数人の非人間達だ。
名も無き村に向かっている以上、非人間が立ち向かってくることは予想できただろう。だがいきなり地面から現れたとすれば驚くのも無理はない。
現れた非人間は弓を使う敵を重点的に倒した後現れた穴の中に逃げ込んだ。常に地上にいるのはコルネリウスと数人の騎士だけ。敵が見えるぎりぎりの位置にアンジェリカもいるが、混乱している敵からは見えない位置だ。
戦局は非人間側に有利だ。
だが非人間もコルネリウスも、アンジェリカもルナも、誰一人として有利だとは思っていない。
たかが有利に戦局を運んだところで、簡単にひっくり返すような存在が敵側にいると考えている。そして悪い予感はよく当たるものだ。
「私が、コルネリウスを抑える。貴様らは隠れている敵にだけ集中しろ。錬度は高いが貴様ら程ではない。一人ずつ確実に抑えろ」
剣戟の音が響く中でよく響く声、この声の主はよく非人間の知る声だった。
上空からコルネリウスの前に降りてきたのは他の敵とは違い白銀に輝く甲冑を身に着け、フェルディナント王国の騎士に授けられる剣を持っていた。
「剣王ウル・マーシャル」
「元剣王です、コルネリウス様。私の腕などあなたには遠く及びません」
名も無き村を離れたウルが戦場に降り立った。




