二章1-6 異端の王子(1)
王宮へ潜入してから数日が過ぎた。アンジェリカはそのまま、二人の王子は連れてこられた名の無い村に順応しつつあった。
最初二人の王子に対して恭しく接していたが、それも今はもうなく友達であるがごとく接していた。
「あまり近寄るなドミニク。斬り殺すぞ」
第一王子コルネリウス・フェルディナント・アルカは剣の寵愛を受けた武人。一つに括り腰まで伸ばした青い髪を左右に振り剣を振る姿は舞いの一部を見せられているようだ。
剣の寵愛。第一王子という次期国王という立場には無用の長物。しかしコルネリウスもまた剣へ寵愛を送っている。立場が違えば、剣の達人がなる剣王にもっとも近いと目されるほどだ。
自分に纏わりつくドミニクを鞘に収まった剣先で突き離す。
「コル兄のケチ! いいもんいいもん、僕はディグマンと賭け事やるから!」
第二王子ドミニク・フェルディナント・ベインは勘で生きている遊び人。勘で生きるとは言うが、できると思ったことはすべてできてきた。政治にも参加し腕を振るっているが、剣の才にだけは見放されていた。剣がドミニクに向ける愛まですべてコルネリウスに向けたのか、剣を持てば蕁麻疹がでるほど。
短いぼさぼさの青い髪を振り乱し、ディグマンの後ろに隠れたドミニクはあかんべーと舌をだす。
ドミニクは病的に人の輪に入るのが上手い。意図してそれを可能としているのだ。そうして何度も周辺諸国の王女を誑かしては国交を築いてきた。選り好みできる性格を除けばアンジェリカと同じだ。
「違う。私は今剣の修練をしている。近寄ると危ないと言っている。故意に斬ってしまうかもしれん」
「故意って言ったー! いつもいつも俺を邪魔者みたいね!」
「みたいにではない。邪魔だ。視界から消えろ」
二人は仲が悪い。顔を合わせれば罵りあい、コルネリウスが一方的に罵倒しドミニクが遠くで減らず口を叩く。数日だが既に名物と化している。
「アンちゃーん! コル兄が虐めるぅ!」
「ば、馬鹿者! 妹に頼るではない! 貴様それでも兄か痴れ者め!」
喧嘩する二人を止めるのはいつもアンジェリカだ。大抵はドミニクが助けを呼ぶのだった。
「お兄様! 喧嘩はいけませんといつも言っているではありませんか!」
腕を組んで立つアンジェリカの前に二人は座る。コルネリウスは自ら正座し、ドミニクはディグマンに座らされて胡坐をかいている。
村のみんなには慣れたことだ。遠巻きにそれを見ていたルナにディグマンが近寄る。
「今日の夜、あそこに来い。そろそろ決める必要がある」
声を抑える。ルナは頷いて答えた。
あそこ、地下から離れたウルが暮らしていた小屋のことだ。
「大体コルネリウス兄様はドミニク兄様を嫌い過ぎです! ドミニク兄様はもう少しちゃんとしてくださいといつも言っているではありませんか! どうしてお二人はいつもこうなのですか!? 仲良くするくらい簡単ではありませんか!」
くどくどと二人を前に説教するアンジェリカ。その一面を初めて見たときはルナも目を見開いたが、今ではもう慣れた日常の一部だ。
今の日常。ルナはその束の間の平穏を大切にしたいと思っている。しかし長くは続かないということはわかりきっている。
国の滅亡の危機だ。滅亡への最後のピースが名も無き村にいる以上、ここが危険にならない筈がない。
「ルナも来てお二人に何か言ってやってください!」
「今行く」
アンジェリカに呼ばれる。
たとえ危険になってもやることは変わらない。ルナには手を取ることも、抱きしめることもできない。ただ護るだけしか、できない。




