二章1-5 鞘と刃と交叉する夢(4)
嗚咽を漏らし続け、数分背中を預け続けたルナは眼下に人の気配を感じ目を向ける。
ディグマンが下から大きな手で手招きしている。それで思い出す。
「そうだ、コルネリウス様とドミニク様が目覚められました」
「そうですね、行きましょう」
アンジェリカが立ち上がりルナも続く。毛布はアンジェリカに羽織らせ、ルナは革で巻かれた腕をアンジェリカへ差し出しエスコートする。
「なんか騎士っていうより執事さんみたいだね」
「友達でもあるんだろ? 傍に入れるなら執事にでもなってやる」
「ルナが執事だったら、私すごく甘えちゃうかも。ダメなお嬢様になっちゃいそう」
「安心しろ。俺が執事だったら駄目にならないよう厳しくしてやるから」
それはやだなと笑い、差し出された腕をとり岩を降りる。ルナに手があれば手を取っていただろう、しかし手はない。そもそも手があれば出会うことすらなかっただろう。
下で待っていたディグマンは降りてきた二人を交互に見る。それからアンジェリカに対して頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。私は国王を見殺しにしました」
「そんなこと言わないでください。あなたは私を護ってくれました、あのまま駄々をこねていたら私の命が危なかった。だから、ありがとうございます」
アンジェリカも頭を下げた。それは一人の騎士に相対する姿ではない。
『非人類』を差別しないことと同じように、『騎士』ですら差別しない。
差別をしないという言葉は差別されたことのない人間の言葉だ。アンジェリカはおそらくそのことに気が付いていない。『差別していない』は『差別している』と同義である。
だからこそ、アンジェリカのいう『差別しない』は純粋に人を見ているということ。姿形、声、仕草、人に起因する全てを無視してその人を受け入れる。
「勿体ないお言葉です。ではアンジェ、行きましょう。下でコルネリウス様とドミニク様がお待ちです」
頭をあげ強面の顔をニッと笑わせる。
「それと、お二方にはもう少しお待ちいただきますので、目元を少し治してからきてください。今、すごい顔になっておりますよ」
声にだして笑ってディグマンは地下へと下がっていった。
「私の顔、そんなに変になってる?」
首を傾げて仰ぎ見るアンジェリカをルナは直視できずに目を背ける。
「アンジェは変じゃない。けど、少し顔を洗ってから行こう、何もおかしいところはないけど」
「うう、変なんだぁ……顔洗ってからいく……」
「変でも綺麗だ! 可愛いぞ!」
アンジェリカはとぼとぼと地下への入口をくぐる。
「もういい、このまま会う。早くお兄様に会いたいです」
拗ねてずんずんとつき進んでいく。場所がわかっているのかいないのか、足を止めることなくすすんでいく。
ルナはアンジェリカの後に続いていたが、不意に足を止める。
「アンジェリカ様」
「……何?」
足を止めて振り返ったアンジェリカは不機嫌な顔をしていた。
「もうどこにも行かせません。手が無く掴み止めることはできませんが、絶対にどこにもいかせません。ずっと待っておりました。我が主」
「何を言ってるんですか、私はもうどこにも行きませんよ?」
「改めて言っておきたかったのです。どうかお忘れなきよう」
そういって今度はルナが先を歩く。迷うことなく進んでいく。
ルナを追うアンジェリカは、その背中を見つめる。
「その言葉遣いのルナってなんだか変ですね」
「変なのはお互いさまです。行きますよ、お二人が首を長くしてお待ちのはずです」
はーいと気の抜けた返事をして、奥へ奥へと突き進む。
最奥の少し豪華な扉がつく部屋にたどり着き、ルナに勧められたアンジェリカが深呼吸を一回。
そして扉を開けて中へと入っていく。
「お待たせしました。アンジェリカ、ただいま参りました」




