二章1-4 鞘と刃と交叉する夢(3)
夢を語る、斬るしかできぬ刃の夢を。
暖かい毛布の中でアンジェリカが時折身動ぎする空気を感じ、彼女がもたれ易いようにルナも体を動かす。
「俺はアンジェの全てを護りたい。アンジェは俺の全てだからだ」
「ルナはルナだよ。私だけのはずがない。ウルもフェザーもディグマンもこの村にいるみんなも、ルナにはあるんだから」
「…………確かにそうだ。本当はというと、俺にはもっと我儘な夢があるんだ」
腕は刃、性格は直刀、しかし心はただの鉄。鍛えられる前のただの鉄。心が成長するにはルナの経験は浅く狭いものだった。
「アンジェの全てを、みんなのことも護りたい」
みんなとは名も無き村に住む騎士達も含めてのみんなだ。
しかし、それだけでは収まらない。
「そして、その中で俺も一緒に笑っていたい。みんなと、アンジェと、一緒に」
それは子供のような夢だった。
全てという言葉の範囲。大人になるに連れて徐々に狭くなっていく全てが、子供のまま成長できていない。ルナは子供、全ての範囲は世界全てだといえるだろう。
我儘な範囲を我儘だと笑うことは誰にもできない。ルナの夢を笑うことができるのはルナだけだ。
「良い夢だね。私の夢とも重なってる」
「重ねたんじゃない。重なったんだ。アンジェと再会して夢が叶って、一緒にいて想いを通じ合わせて、気持ちが重なったんだ」
「そうなんだ。再会できてよかった。すれ違わなくて、よかった」
アンジェリカはルナの背を自分に向けさせ、その背中にぴったりと体をくっつける。
もう早く強い鼓動が伝わってしまうかもしれないが、構うものか。
腕を回して強く、アンジェリカはルナの背に密着する。
「今更だけど会えてよかった。もう離れたくないよ。離れていかないでね」
「……その、アンジェと俺は主と騎士の関係であってだな」
「友達でもあるよ」
「しかしだな……」
「一緒にいてくれるんでしょ?」
背中越しにルナの早くなっていく鼓動が耳に響く。強く主張しつつある鼓動を聞かれまいと離れようとするが、アンジェリカは逃がさない。
「傍に、いてくれるんでしょ?」
声が震えている。
ルナは鼓動が落ち着き、急速に頭が冷めていく。
アンジェリカは国王、いや父親が死に行くことを受け入れることができなかった。抱えて連れてかえられてきた。
無論国王がその後どうなるか分からないアンジェリカではない。父親の死を悲しんでいないはずがないのだ。
名も無き村にいたからここまで我慢することができた。
名も無き村にいるからこれ以上我慢することができない。
最も親しい者の死を、そう簡単に受け入れられないだろう。
高揚して抑えていようとしていた気持ちを抑えきることができなくなってしまったのだろう。
回された腕も、背中に密着する体も、小さく震えている。声を出すまいとして漏れる嗚咽をルナは耳に入れない。
「傍にいる。俺は騎士だ。一度立てた誓いを反故にすることはしない」
「絶対、絶対だよ?」
「絶対だ」
ルナは強くそう言った。そして強く思う。
もう誰も、アンジェリカの手から零れ落とさない。
胸の内でたてた誓いをアンジェリカが知ることはない。ルナが漏らすこともない。
しかし、いつか気付くだろう。ルナが誓いを護り、アンジェリカの傍に立つかぎり。




