二章1-3 鞘と刃と交叉する夢(2)
満天の星空。寒風が時折流れる。夢を語る、刃を収める鞘の夢を。
毛布に包まれた二人の体は暖かい。アンジェリカがルナに密着するほど毛布の中は温もっていく。
「今の私の夢は、みんなと生きること。ルナやここにいるみんな、フェルディナント王国のみんなと、生きること」
アンジェリカの純粋すぎる夢。
人間も非人類も関係無い。フェルディナント王国に生きる人間を差別せず受け入れる。
すべての国で実現し得なかったこと。
『非人類』は人間が生きるために切り捨てた人間達、必要な犠牲だということはできないが生まれてしまった負の遺産だ。
「私の夢は可笑しいでしょ? ルナと出会って、ここにいる人達と出会って、ワーストウォーカーと呼ばれてる人と出会って分かっちゃったんだ。みんな普通の人間なんだって」
「普通の人間とは少し違うがな」
「一緒だよ。命があって必死にいきてる。不自由無く生きてきた私の方がよっぽど人間じゃないよ」
「それは違う」
王族は確かに不自由なく暮らしている。下につく民によって不自由なく暮らすことができているのだ、それをルナもよく知っている。必死に生きるということを知らない人もいるのだと知っている。
それでも、アンジェリカの言うことが違うと断言することができる。他でもない必死に生きてきた人間だからこそ、言うことができる。
「不自由なく生きることは、不自由して生きるよりも良いことなんだ。それを否定されると、不自由の中で暮らしている人は何を目指して生きていけばいい」
不自由であるからこそ自由に憧れる。憧れがあるからこそ人として生きていくことができる。
「だからアンジェはそれでよかったんだ。そのままで、いてほしい」
鼓動が早まる。目を閉じるとルナの体温を感じる。生きている人間の体温だ。
嬉しいことだ、王宮にいる間はこうして誰かの体温を感じることは少なかった。たまに父の腕に抱かれたときと同じ、温かく優しい感覚。
父が娘の将来を、国民が国の繁栄を、名も無い者が将来を、────希望している。
希望に形は無い。だがそれはとても重い、一人では耐えきれないほどに。
「そのままでいれるかな?」
「いれるとも。障害があるなら斬り開く」
「支えてくれるの?」
「俺の腕では、アンジェを支えることはできない。傍に立っていることくらいしかできない」
傍にいる。それだけで嬉しい。
前に進んでも、後ろに退いても、傍にいる。ルナはアンジェリカの初めての騎士だ。騎士は生涯、自ら立てた誓いを胸に生き続ける。
誓いを違えることはできない。ルナの師匠はウルという騎士なのだから。
「ルナ……本当にありがとう」
「仕えられるアンジェが頭を下げる必要はない。頭を下げるのは仕える俺だけでいい。胸を張って自由に生きていさえくれればいい」
自由という言葉を強調する。自由はこの名も無き村にいる人間の願いでもある、そうアンジェリカは思った。
なら、アンジェリカの自由とは。
「そうする。これから私は自由に縛られながら夢を語るよ」
「すまん。俺がもっと強ければな……」
「いいんだよ。私の夢はみんなと生きることなんだから。みんながより幸せ生きれるなら、私の自由なんて大盤振る舞いできる。夢はどんどん膨らませないとね」
瞼の裏に未来が浮かぶ。差別なく誰もが自由の未来が。
温かい未来、夢だ。
「我儘だね」
「夢だからな」
「そうだね。夢だもんね」
目を開くと星が数億数兆と数えきれないほど輝いている。
だが星に自由はない。夜に同じ場所で輝き夜空を照らし、昼は太陽の明るさの中に隠され、途方もない年月を一箇所に縛られ続ける。見るも見ないも人間の自由。
アンジェリカは星になる。見上げればそこにある星に、自由に夜空に浮かぶ不自由な星に。
それが、アンジェリカ・フェルディナント・アーサーの夢になった。




