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二章1-2 鞘と刃と交叉する夢(1)

 名も無き村。その地下に広がる秘密の詰め所に帰ってきたアンジェリカ達はそれぞれ自分の居場所に戻って休息を取っていた。

 誰も死ぬことのなく帰ってくることができたが、唯一国王だけは連れ戻すことができなかった。

「アンジェ、ここにいたのか」

 地下への出入り口に置かれている岩の上、一人夜空を見上げていたアンジェリカは声のする方を見る。

 両手の異形を革で包んで隠すルナが心配そうな顔をしながら近付いてきた。革で包まれた腕には毛布が一枚掛けられている。

「ルナ……」

「今日は冷える。そんなところにいたら風邪をひくぞ」

「そうだね、ちょっと寒い。でももう少しだけ空を、星を見てたくて」

「ならこれを被っていろ。……すまない、俺の腕ではかけてやることもできない」

 いいよと言って毛布を受け取り被る。ルナは隣に座るが何も口に出さない。

 相変わらずのルナにアンジェリカの心は安らいでいた。今のアンジェリカにはただ隣にいてくれるだけで幾分にも助かっている。

「空、広いね。星がいっぱい」

「…………ああ」

「ルナは覚えてる? 私と初めて会った時のこと」

 思い出したように口に出す。近い日に夢を見ていたからかもしれない。

 問われたルナは空を仰ぎ見て、雲がかかる空を思い出していた。

「狭い、曇り空だった」

「周りが建物だったから狭く見えちゃったんだね」

「ああ。でも俺にはその狭い空も広く見えた。曇っていても明るく見えた。初めての空だったから」

 幼いころの記憶は忘れてしまうものだ。しかし、それでも鮮明に残っているものは必ずある。ルナにとってアンジェリカと初めて出会った記憶がそれだ。忘れようにも忘れられない、忘れないとも思わない元始の記憶。

「それにアンジェがいた。初めて俺の醜い腕を取ってくれた、傷つけることしかできないこの腕を」

「綺麗だよ、醜いなんて言わないで?」

「……あの時の傷はもう治ったか?」

 言われてアンジェリカは両手を開いて見せる。左手は綺麗な手、右手には横一線に斬られた痕が生々しく残っていた。

 顔を歪めるルナにアンジェリカはいいのと声をかけた。

「この傷跡はね、約束の証なの。幼い日の約束を思い出すための。これがあったから私は挫けそうな時も頑張ることができたの」

「そうか……、もうあんな無茶な真似はしないでくれ。……ありがとう」

 感謝を、ルナにとって精一杯の感謝を告げた。アンジェリカは感謝を聞き入れ、毛布を広げてルナにもかぶせる。少しだけ抵抗するが、すぐに諦めアンジェリカに近寄る。少しでも毛布がアンジェリカにかかるように密着するまでだ。

 何でもない風に、バクバクと早くなっていく鼓動を必死に抑えて、アンジェリカからもルナへと寄りかかる。

「夢、叶っちゃったね。ルナは私の護る騎士になった」

「そうだな。今も叶ってる、でも」

 ルナは肩に置かれた頭を撫でることもできない革で包まれた腕を目で撫でる。

 叶うと思いもしなかった夢を叶えている。しかし、満足はしていない。

 なぜなら、

「ウルがいない。俺はアンジェの護りたいものも護りたい。アンジェの全てを護る騎士でありたい。我儘だろうか?」

「──夢は、我儘なものだよ」

 ルナが自分のことを考えてくれている。そのことがアンジェリカには本当に嬉しいことだった。王族として扱わず、友人として接してくれる。主人として接することもあるが、今の言葉は友人としてのものだ。

「楽しい話をしよ。今の夢を聞いてくれる?」

「ああ。夢は夜に見るものだからな」

 二人は会わなかった時間の穴を埋めるように、言葉を交わしていく。

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