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二章1-1 揺るがぬ誓い

 昔からウルは約束を守る子供であった。大人になってもそれだけは変わらず、自分にいくつかの制約をかけることで忠義を示し、自らを鼓舞し続けていた。

 そう、ウルは約束を守る。どんなに不可能に近い約束であろうとも、それが不可能と断定できない限り守ろうと尽力する。不可能であるなら、最低限守れる部分は必ず守る。

 幼少の頃から変えることなくそう生きてきた。ゆえに、彼にはその生き方しかできない。

「前にも一度言ったはずだが、お前に頭を下げられるのは不愉快だ」

 下げていた頭を蹴り上げられる。上を向いたウルの視界にハロルドの不機嫌な顔が映っていた。

「申し訳ありません」

 ウルは短く答える。だが顔を上げた以外は動いていない。膝を付いたまま立ち上がることだけはしない。させない。

 鬱陶しそうにウルを見るハロルドは脇で控える兵士の一人を呼ぶ。

「他の王族がどこに行ったか分かったのか?」

「はっ! 王宮の地下に複数の避難通路を発見いたしました。おそらく何者かがそこから侵入し、逃げ出したのではないかと思われます!」

「何故誰もそのことに気づかなかった! どれだけの人員を監視に回したと思ってる!」

 兵士は直立不動のまま。ちらりとウルを見やり答えた。

「そこの者が監視の者を片っ端から昏睡させていたようで、警備が手薄になっておりました!」

「必要なことで――――」

「――――うるせえ! 俺の許可無く口を開くんじゃねえ!」

 もう一度、ウルの頭が蹴り上げらげる。くぐもった声一つあがらないが、顔は面白いように上下した。

 その反応がハロルドには面白くなかったのか、浮いた頭を腕で強引に地面に叩きつけさらに足蹴にする。

 呻く方法がわからないとでもいうように声は一切あげない。まるで呻き声の上げ方がわからないとでもいうように。

「はぁ……はぁ……。で、どこに行ったかは見当ついてんだろうな?」

「それが地下の通路が各方面に伸びているため特定は難しいです。ただ一か所だけ最近壊された部分があるのと、その先に地図上で不思議な空白がありました」

「不思議な空白……? おい、そこには何がある?」

 フェルディナント国のことを知らないハロルドは足蹴にしたウルに問いかける。彼は足蹴にされたまま、しかしはっきりと答えた。

「人類に非ず。ワーストヒューマンの集落がございます」

「奴ら、まだ生き残っていたのか」

 露骨に顔を歪めるハロルド。ワーストヒューマンに対してほとんどの人間がする反応だ。

 頭を踏まれ強制的に顔を伏せさせられているウルがどんな顔をしているのか見ることはできない。だが、おそらく彼は眉一つ動かさずにハロルドの悪態を聞いていることだろう。

「奴らの駆除はこの国を完全に手に入れた後でもいい。今は逃げた王族がどこにいるかを国中歩き回ってでも探し出せ! 周辺諸国はすでに占領してある、亡命などできるはずがない。必ずこの国の中にいるはずだ!」

「はっ! 捜索範囲を拡大し、すぐに見つけ出します!」

 兵士が出ていくと、元は執務室であった部屋にウルとハロルドの二人だけとなった。

 ハロルドはウルを足蹴にしたまま椅子に座り、自ら踏みつけているウルを鬼の形相で見下ろしている。

「一つ、進言よろしいでしょうか?」

 はっきりとした声でウルが言った。

 眉を寄せるハロルドだが、続けろとでも言うようにウルの頭を一度グリッと踏む足に力を入れる。

「お探しの王妃様や王子様方は、ワーストヒューマンの集落におられます」

「なんだと……? 何故貴様がそれを知っている!」

 また強く踏まれる。

「私が、その場所で救い出す手筈を整えたからでございます」

 そうか、と激情を抑えた声。ハロルドは立ち上がると踏んでいた足を引き、ウルの横に回ると力の限り彼の腹を蹴った。ウルはびくりともせず、逆にハロルドの足にダメージがあるようだった。

 だがハロルドは足の痛みなど気にせず、同じ場所を二三回蹴る。

 荒い息をしながら、しかしハロルドは怒鳴りつけるようなことはない。何故ウルが教えたのか考えることもなく、自らの復讐心を満たすための思考だけが先に回っている。部下に王妃や王子達の居場所を伝えるため、ハロルドは部屋を出て行った。

 一人残ったウルは動くことなく、地面を見続ける。


 せめて殺さずに生かす方法を見つけだしてやってくれ。


 友の言葉を胸に秘める。約束を違えることはできない。そもそも違えかたが彼にはわからない。

 グッと拳を握りしめて床に敷かれたカーペットを掴む。

「必ず」

 どうすればいいかなど知るはずもない。一方的な無茶を約束されたものだとウルは思い、同時にそれでもいいと続けた。その約束こそが友を忘れずにいられる繋がりなのだから。

 ゆえに、ウルは自らが進むことのできる道をひたすら進むだけだ。それがたとえ他のすべてを裏切ることになる選択だとしても。


 彼には誓いを守る以外、生き方を知らない。誰も教えてくれない。

ながらくおまたせしましたー。

更新再開します!

遅筆ですが、これからもよろしくおねがいします!

目標は書ききること!

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