一章3-9 太陽の鞘を持つ少女
『非人間』達は名も無き村に戻ってきた。
王子達は牢に閉じ込められていた疲労で衰弱していたので、そのまま休める場所へ案内された。
帰ってきてからは地上に出ている『非人間』の数多くなった。二人の王子を迎えているため警備を厳重にしている。今はウルがいないため、外を見張る者が少なくなったからだ。
ウルは名も無き村で初めて目が覚めた場所に戻っていた。ウルやフェザーと初めて出会った場所だ。ここに帰ってくるとウルがどこかにいるのではないかと思うほど、ウルがいたという匂いが染みついている。
しかしどこにもいない。
「ウルは生きてる。私達に会うまで死ぬことはない」
ルナはアンジェリカに言っていた。
王宮の自分の部屋以外で初めて寝たベッドに横になる。それほど前のことではなかったのだが、昔のことのように彼女には思えた。
ウルを連れ戻すことができなかった。アンジェリカはそのことを考えていた。
「無事でいてください。きっとここに連れ戻します」
ドアがごんごんと鳴る。硬い靴で蹴ったような音だ。だが扉が開かない。
もう一度同じ音が鳴った。アンジェリカは重い体を動かして、扉を開けた。
前に立っていたのはルナだった。
「すまない。自分では開けられないんだ」
「ルナ、どうしたの?」
「少し、話をしにきた」
招き入れられた部屋でルナは椅子に座り、アンジェリカはベッドの端に座った。
「もう一度、聞きに来た」
ルナはアンジェリカを見て言う。
「今からでも遅くない。ウルを救いに戻るか?」
「でも……」
逡巡する。アンジェリカが今一番したいことは、ウルを取り戻すことだ。ルナはそれを知っている、だからこそ聞いているのだ。
「望むことを言えばいい。私はアンジェの騎士なのだから。……それとも」
一度言葉を区切る。目はアンジェリカから離れず、表情も変わらない。
「……僕はまだ、君の騎士としては頼りないだろうか?」
革の鞘に納められた二つの刃を重ね、アンジェリカの言葉を待っている。刃でなく手であったなら、拳を合わせ硬く握り合わせていたことだろう。
ルナにとっては生きている意味がそこに集約されている。騎士になれていないということは、生きている意味がないと言われていること同義だった。
アンジェリカにウルの生き方を理解することはできない。
生きている場所で、生を否定されたことがないからだ。
「――――ルナが言ってくれたのですよ。私の騎士だって」
だからと、今度はアンジェリカがルナの目を見つめた。
「私は誰も死なせたくありません。ルナにもこの村の人達にも。今は考えましょう、これからどうするかを、みんなで」
「――ああ、アンジェが望みのままに」
ルナは頷いて立ち上がった。立っている姿はウルと同じようにまっすぐだ。その姿はまるで抜き身の剣であるかのようだ。
剣は抜き身の剣を他を傷つけ、己自身も傷つける。
故に、そのままでは危険なルナを抑えるアンジェリカは鞘であるということだろう。
強く光輝く太陽は月を覆い隠す。
ならば月の刃を納めるものは太陽の鞘だ。
「絶対にみんなでウルを連れ戻しましょう」
アンジェリカは言いきり、ウルはもう一度頷き部屋を後にした。
一章はこれにて終わりです。
二章の更新は年明けか、12月になると思います。
それではまたいづれ続きで会いましょう!




