一章3-8 王の責務(4)
城へ入ってきた穴の前に辿り着いた。すでに数人の『非人間』がそこにいた。
「隊長、王は」
「良い返事はいただけなかった。それと今はウルを諦めよとも言われた。撤退する、長居しても解決できないだろう。他の王子様は救出できたか?」
「はい。先に村へご案内しています」
「よし。お前達とウルはアンジェリカを連れて村に戻れ。俺はここを塞いでからいく」
「塞いでしまうのですか?」
声は抑えているが今にも駆けて戻りたいようだ。
「穴はどちらからでも使えます。村から城に行けるということは城から村へこれるということです。穴もすぐに埋めてしまいます」
「まだ父上が!」
「これ以上いてはアンジェまで危険があります。王様もウルもそれは望まれないでしょう。お二人の気持ちを無駄にするおつもりですか?」
少し強めにディグマンが言った。彼にもアンジェリカの気持ちは分かっている。しかし甘えさせる訳にはいかない。ウルからアンジェリカを託された、友として護らなければならないのだ。
残る仲間にアンジェリカを預ける。アンジェリカを預かった後、名も無き村に向けて走っていった。
「王様は殺される。あの言い方だとウルは受け入れてるみたいだ。……アンジェリカが父上と顔を合わせることはない」
「……分かっているさ。だからこそ、一刻も早くここを立ち去り、この通路を塞がなければならないんだ」
「もしもアンジェリカが戻りたいと言ったなら、僕はあなたが相手でも敵になる」
「それなら敵になることはないな」
ディグマンは入口の岩を閉じて少し離れたところから掻き集めた土を被せて固める。
途中でくつくつと笑い声が零れ出ている。
「アンジェは賢い子だ。そんなことにはならないよ。それに今は、お前がいるからな」
「どういう意味だ!」
「適材適所さ。ルナにはルナの場所、アンジェにはアンジェの場所がある。だからルナ、お前はアンジェをずっと見ていろ。お前は騎士なんだ、姫を必ず護れるように絶対に目を離すなよ」
ルナは顔を顰めてディグマンに背を向けた。納得できないことがあるのだろうか、それとも言われるまでもないとでも思っているのか、ディグマンにはどちらでもよかった。
穴を埋める手を止めずに思う、友のことを。
「何をしようとしているんだか、裏切ったら許さないからな」
埋められていく。穴の向こうにいる友は敵になることはない。国へ忠誠を誓う騎士が国の一部である国民に刃を向けることはないのだ。
どうなるのか、ディグマンは土まみれの手で頭を抱えながら先のことを考えて顔を曇らせるのだった。
ルナは先に行ったアンジェリカを追っている間、彼女のことを考えていた。
何をすれば一番アンジェリカのためになるか、そのために自分が何をすることができるのか。
ルナに行動する前に考えることを教えたのはウルだ。騎士としての行動、生活に必要な知識、護るために必要な技術、全てウルがルナに教えた。
今ウルがどうなっているのかルナは知らない。無事であることは疑っていない。
嘘をつくな。それはウルがいつも教えてくれた騎士の教えだ。
帰ると、ルナやフェザーに聞こえないような小さい声で言っていた。聞いて貰うために言ったのではないとルナは考えている。
静かに分からずに、しかし確実に約束するためにウルは言ったのだ。
「まだ教えてほしいことがある。アンジェリカも生きてほしいと願っている。だから救う」
アンジェリカが見える。供の者が肩に担いで顔は後ろに向いている。後から追ってきたルナを見つけて、安堵したような落胆したような顔をした。
追いつきアンジェリカの顔の前にきたルナは、しばし黙りしかし言った。
「戻るか? アンジェが望むなら私は今すぐにでも道を開く」
供をしている者は一瞬身を固くしたが、それでも歩くことはやめず、アンジェリカの言葉を待つ。
十歩くらいの間隔である燭台を二つ通りすぎた後、アンジェリカは口を開いた。
「いいえ……今は、このままで……」
「分かった。アンジェの言う通りにしよう」
それ以上は何も話さない。
アンジェリカ達は村へと帰っていった。




