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一章3-7 王の責務(3)

 暗い牢の中は冷たく、オズワルドがじっと座り続けていた場所だけが少し温かくなっている。

 必ず死ぬ、それはオズワルドは覚悟している。ウルが先に行った以上、ハロルドの兵士がオズワルドを迎えにくるのはもうすぐだ。


 国を頼む、か。一介の騎士に頼むようなものではないな。


 オズワルドは目を閉じる。考えていることはウルも同じだろう。考えが似ているからこそオズワルドは近衛騎士へと迎えた。

 オズワルドにとってウルはもう一人の自分だ。国に忠誠を誓ったウルを思えばオズワルドが国のために動ける。国の王としてオズワルドが動けばウルが思う国を護る。

 ウルだけではなく他の近衛騎士達もいることでオズワルドは賢君としていることができた。

「今の私は愚王であるか」

 漏れ出た声が暗闇に呑まれて消える。声に出してさえ自分の中でしか反響しない。

 だが外の音だけは鮮明に聞こえてくる。どたばたと慌てているように、しかし規則的な足音だ。兵士が何人かオズワルドのいる牢へ向かい走ってくる。

 遠くで足音と一緒に聞こえくる声は三つ。


 ウルがハロルドの下に現れたということ。

 オズワルドを牢からハロルドの下へ連れていく命令がでていること。

 そしてフェルディナントの王子達が音もなく消えているということだ。


 オズワルドからすれば名も無き騎士達がうまくやってくれたのだろう。彼らが騎士であることを疑うことはなかったが、心配はしていたのだ。

 王は名も無き村の『非人類』達のことを騎士として認めている。しかしそれは慣習という意味合いで使われていることが多かった。真の意味で彼らを認めていたわけではなかったのだ。

 代々王となった者に伝えられていることは、名も無き村に誰にも知られていない騎士がいるということ、その騎士達は王族を絶対に裏切らないということ、国が窮地に陥ってなお更なる窮地に立った時に立ち向かう騎士であるということ。

 牢に閉じ込められて死の宣告をする者が刻一刻と近づいてくるこの瞬間に、伝えられていたことが真実だと知ることができた。オズワルドにとってそれは何よりも嬉しいことだった。

 オズワルドはいるかいないのか分からない存在の下へ友を置き、大切な娘を預けたのだ。伝えられていたような者でなければ友も娘も失っていた。しかし娘を、アンジェリカを救うためにはそれしか方法が思い浮かばなかったのだ。

 嘘か真かわからない奇跡に頼りでもしない限り、助けられる見込みはなかった。それほど追いつめられていた。

「だが、繋がった」


 一よりも零に近い可能性。

 繋がった今はかもしれないではなく絶対に、信頼できる。


 牢への入口からオーベルングの兵士が入ってくる。

「ハロルド様がお待っています。ついてきてください」

 オズワルドは自ら立ち上がり檻に近づく。錠の開けられる音は兵士がしたが、鉄製の重たい扉を開けて出たのはオズワルドの意思によるものだ。彼は自ら状況を受け入れることで王としての立場を守っている。

 もしもオズワルドが抵抗をしめしていたならば、兵士達は彼を王としてではなく捕虜として扱っていたことだろう。

 兵士達はハロルドから王を丁重に扱うように厳命されている。しかしそれは余裕があるときだ。抵抗があり丁重に扱う必要がないと判断したならば、王としてのオズワルドが消えてしまう。

 兵士に連れられた先にハロルドがいた。彼の眼前にはウルが不恰好に顔をあげている。

「一言王と話をさせていただいてよろしいでしょうか」

 ウルが言うとハロルドは受け入れて後ろに下がる。後ろから剣を持つ独特の音が聞こえる。

 最後の一言を聞いた後殺される、オズワルドは理解した。だが恐怖はなかった。膝をついて頭を下げ、剣を前に突き立てる姿をみて懐かしいとさえ思った。

 その姿は、


 かつて国へ忠誠を誓った騎士と同じだったからだ。


「わかった」

 安堵し、そして視界が落ちていくのを呆然とみた。

 オズワルドは最後、自分が安らかな表情だと知ることができた。

 ただ黙して自分を見るウルの表情が、友でなければ気付かぬほど僅かに歪んでいたからだった。

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