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一章3-6 王の責務(2)

 開いた道から少数で潜り抜ける。出たところは数ある地下の一つだった。武器を貯蔵しておくための空間なのだ。当然警備のための人員が配備されているはずなのだが、ここには誰もいない。いたという痕跡だけを残し存在だけが消されている。

 これはおそらくウルがしたことだとわかる。彼には必要のない場所だが、わざわざ寄って安全にしていてくれたのだろう。

「アンジェとルナは私についてきてください。私達は王のところへ行きます」

 ディグマンはそう言って先頭を歩き、アンジェリカを真ん中に据えるようにルナが最後尾につく。

 武器庫は地下からすべての地下へと繋がっている。だからこそここに繋がっていたのだろう。

 壁にある棚を動かすと後ろに大きな穴が開いていた。

「この穴は知りませんでした……」

「当然です。王の指示で空けられた穴ではありませんので。地下に空いてる穴のほとんどは私の祖先が勝手に空けたものです」

「そうなんですか」

 彼等『非人類』のことを考えるとそうするしかなかったのだろう。万全を期していたのだ。

 何も言わずに進むと、穴の先にまた壁が現れる。それをディグマンはゆっくりと横にずらす。すると向こう側に明るい空間が見える。

 彼は小さな隙間から向こう側を覗き、それから一気に開ける。

 隅に倒れている兵士がいるが気絶させられているのか起きるような気配はない。先に出たディグマンは周囲を確認して兵士がいないことを確認すると、そのまま牢へと進む。アンジェリカとルナもその後を追い、三人で牢へと侵入する。鍵はすでに開けられていた。

 先へ進むと大きな格子があり、その向こうにアンジェリカがよく知る人が捕えられていた。最近まで身近にいた彼女にとって大切な家族、そして国にとって重要な人物。

 オズワルド・フェルディナント・アジェスト、フェルディナント国王その人だ。

 王は現れた三人を見ていた。いや、その目に写しているいるのはもっと先だ。

「――――オズワルド陛下でありますか?」

「いかにも。初対面だな、名も無き村の騎士達。それと、――――アンジェリカ」

 ディグマンとルナはその場で膝を折り、頭を下げる。真ん中にいたアンジェリカだけが呆然と立ち、目の前で繋がれている父を見つめていた。

「父上……」

 言いたいことをアンジェリカは微塵も声にだすことができなかった。死んだと思っていたオズワルドが、生きて今目の前にいる。

「私を連れだすために来てくれたのか」

「ウルを連れ戻すためであります。が、この状況で見て見ぬフリはできません」

「すまない。私は逃げるわけにはいかない。ついでというなら王子達を頼む。逃がし遅れて巻き込んでしまったのでな」

「しかし……それでは国が滅びてしまいます」

 長居する訳にはいかないが、オズワルドは何を言っても動こうとしないだろう。

「父上、私はどうすればいいのでしょうか? 父上を見捨てて生きることなど」

「コルネリウスやドミニクそしてアンジェリカ、お前達は私の宝物だ。不甲斐無い父からの最後のお願いだ。どうか生きて幸せになってくれ」

「嫌です! 父上と離れたくありません!」

 アンジェリカは声を大きくして言う。声は外にまで響いているだろう。

「その言葉だけで嬉しいよ。……騎士よ、後は任せた」

 オズワルドは立ち上がり、檻に近付く。鎖などで繋がれていない。抵抗せずに連れられたのだ。だが檻は開かれていない。

 檻から手を伸ばしてアンジェリカの頭を撫でる。

「今はウルを連れ戻すことはできない。今回は諦めて帰りなさい」

「ですが、アンジェリカ姫が連れ戻すことを望まれています」

「大丈夫。諦めることはあってもお前達を忘れることはない、ウルはそういうやつだ」

 もう行きなさい。そういってアンジェリカの頭を撫でていた手を離し奥へと戻る。

 ディグマンはアンジェリカを抱える。抵抗するが体の大きさが違う。牢から簡単に離され、来た道を戻らされていく。

 離してと言うアンジェリカの口は押えられ、暗闇で見えなくなるまで静かに見ていることしかできない。

 王は一人、牢の中で時を待ち続ける。

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