一章3-5 王の責務(1)
ディグマンに案内されたのは名も無き村の地下の奥だった。どうやって中に持ち運んだのか、大きな岩で入口が塞がれていた。
後ろにいるアンジェリカ達に下がるように合図し、ディグマンは一振りで塞いでいる岩を砕いた。その先に大きな通路が現れた。
「これは……?」
「王宮の地下へと続く道です。大昔は緊急避難とための通路としておりましたが、国力が安定するに連れて使われることのなくなりました。しかしいざという時のために入口だけ塞いで保存していたのです」
「私王宮の中にはよく行きましたけど、どこにもこんな穴ありませんでしたよ……?」
「塞いだ上で壁を作ればみつかることはありませんよ」
中に入るとひんやりと冷たい空気が肌を刺激した。中は少し埃っぽいが綺麗に整えられていて、容易には崩れそうにない頑強な造りになっている。所々に空いた穴から微かに空気が流れ込んでいるが、どういった造りになっているのかアンジェリカには分からなかった。
ディグマンは松明に火を点け、壁に等間隔で並べてある燭台に火を移しながら奥へと進んでいく。
「この通路を通ればお昼前には王宮へつくことができます。ウルの予想ではそこにフェルディナント王がいるはずです」
「わかりました。行きましょう」
アンジェリカの声を聞いて全員が奥へと進む。
村にいた戦える者は全員がアンジェリカと一緒に行くことを決めた。唯一、フェザーだけは一緒に付いてこなかったが、ウルを助けるために別の道でいくとアンジェリカに言っていたので、見捨てたのではないということだけは分かっている。
先頭を歩き、火を灯していくディグマンの後ろにアンジェリカがいて、その横にいるのはルナだ。彼は縫って貰ったのか分厚い革製の袋を体の前に取り付け、腕を交差させるようにして袋に納めている。
背中を押されて決意した後からアンジェリカとルナに会話はない。嫌っているというわけではなく、話の共通点が持てないからなのだが、気まずいという感じはなかった。
昨日会ったルナとはどこか違う感じがする。アンジェリカは胸に残る感情に疑問を感じながらルナを見た。ルナは何を考えているのかわからない顔で歩いている。
「どうした?」
だが見てはいるのかアンジェリカを見ないままルナが言った。
「ううん、何でもない。絶対助けようね」
「アンジェが望みを叶えるのが私の責務だ。必ず助けよう」
固いなあとアンジェリカは思ったが、すぐに態度を変えることなんてできないよねと一人で納得する。
休憩を挟みながら数時間歩くと道が閉ざされていた。地下から入ってきたときと同様に大きな岩での封鎖だった。
「この向こうが王宮に繋がっております。ここからは時間がかかります。大きな音をだすわけにはいきませんので」
「いや、悠長にしている時間はない」
シュと音が響く。
ルナは両手を皮袋から抜く。素早く抜いたわけでも、力強く抜いたわけでもない。ただ自然に抜く動作だけで空気を斬る音が響いたのだ。
「お前がソレを使うなんて珍しいな」
「アンジェが望みを叶えるためになら」
やれやれと言いながらディグマンは後退する。かわりに前に出たルナは片手を振り上げる。
斬撃の音はない。振り落した腕の軌跡には大岩があるはずだが、まるで無いものと同じように手はソレを通った。今度は音もなく皮袋へ腕を納めた。
大岩には縦一文字に罅が入っている。ディグマンは罅に手をかけて左右へと押し開く。
道ができた。先は薄暗いが光がある。突入開始が開始される。




