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一章3-4 聖騎士の凱旋(4)

 ウルは来たときと同じように陰から陰へ移動しながら先へ進む。目指す場所は玉座のある広場だ。

 玉座の間に近づくにつれて見張りの数もだんだんと増えてきた。見つからずに移動するには限界にまでなっていた。これ以上は密かに行動する意味がない。

 最後の陰で息をゆっくりと吸い、ゆっくりと吐いて剣の柄を握った。


 国を頼む? 一介の騎士に頼めるものではないだろうに。


 思わず笑いそうになるのを堪える。昔からオズワルドの簡単に言う難しい命令は多かったが、今回はそれが極まっている。

 ウルは、しかし今回も聞いてしまった。

 弱きを護り、強きを挫く。本来そのようなことを王国騎士は誓うが、ウルはもう一つ近衛騎士として誓ったものがある。


 国への忠誠、それがウルの結んだ誓い。


「フェザー達との約束は守れそうにないな」

 唯一残念に思うことを言葉と一緒に捨てる。未練は残さないために。

 ウルはこれからするべきことを確定した。それに対して障害となるモノは何であろうと、何があろうと進むのみとなる。それしかできないのだから、それだけは絶対に為す。

 躍り出ると共に何人か斬り伏せる。敵軍兵士がウルを視認する。攻撃がこない、彼のことを捕縛するようにでも命令されているのだろう。

 だから彼は言った。

「抵抗はしない。連れていってくれ、ハロルド王子のところへ」

「今目の前で味方を斬った者をどうやって信じろという」

「私は騎士です、あなた方とは違う。口にしたことは守る」

 ウルの言葉に眉一つ動かさず、一人だけ回りと違う帽子を被った兵士は腰の柄から手を放す。ついてこいと合図する。

「指揮官に会わせる。付いてこい」

 連れていかれた先、玉座に座ったハロルドが待っていた。

 茶色の軍服に身を包み、退屈そうに肘をついていが、目だけはウルを捉えて暗く輝いている。

「死んだ騎士の帰還だな、ウル・アルカディア」

「一つ訂正させていただきたい。ただの帰還ではありません。――――凱旋です。ここに私が帰ってきたと、国に知らせましたので」

 凱旋、ハロルドが叶わなかった帰還。戦いに勝ち華々しく国へと戻ること。王子は一瞬眉を寄せるが、すぐにまた無表情に戻る。

「ははは、凱旋か。国が滅ぼされ、フェルディナント王すらいないこの場に帰り、よく言えたものだな」

「はい。任務を果たし、約束も果たし、私を求める者も大勢います。ここまで熱烈な歓迎をされたのは初めてです。私にとってこれは凱旋と言えます」

「ふざけたことを」

 まあいいとハロルドは腰を上げた。軽い足取りでウルへと近づく。

 ウルは膝を折りハロルドに対し頭を下げた。他国の王子に対して騎士ができる誠意というだろう。

「顔をあげろ、俺をめちゃくちゃにした野郎に頭を下げられるなど不愉快だ」

 ハロルドはウルの頭を蹴り上げる。

「俺はお前に会うのを楽しみにしていた。いつか絶対にお前を苦しめてやろうと思っていた。そして今、その願いがようやく叶った」

 ウルの頭を掴んで持ち上げる。

「お前の前でお前が大事だと思うものを殺しつくしてやる。泣いて喚いて殺してくれと懇願されても殺すものか、大事なものを見つけては壊し何も残せないまま死んでもらう。手始めに騎士の誇りを大事なものと一緒に失ってもらおうか」

 おいと合図をすると縄に繋がれた人間が兵士に連れられて入ってきた。

 先ほどウルと話していたオズワルドだ。彼は引っ張られている様子もなく、自らの意志でここまで来ていた。

「どうした? 捕らえてある王族は全員連れてこいと言ったはずだが?」

「申しわけありません! 何者かに連れ去られたようで、この者しかおりませんでした!」

「連れ去られた? 警戒はしていただろ! どうしてそんなことになっている!」

「ただちに調査いたします!」

 兵士が敬礼をして立ち去る。

「っ……まあいい。まずはこいつからだ」

「ハロルド王子。一言王と話をさせていただいてよろしいでしょうか」

 進言を除き始めて口を開いたウルにハロルドは驚いて、口の端を吊り上げる。最後の最後でウルが守ろうとしていると、勘違いしたのかもしれない。

 王を突き出し下がり、兵士から剣を受け取り鞘から抜き放つ。

 ウルは王の前で蹴り上げられた頭をもう一度下げる。剣を抜き目の前に立てる。

 そして一言。


 分かった。


 王に向ける言葉ではない。ゆえにこれは騎士としての言葉ではない。

 オズワルドは笑い、そして笑った顔のまま地面に落ちた。神聖な玉座の間を自らの血で汚していく。

 ハロルドは高らかに笑い、ウルはただ黙したまま突き立てた剣を鞘に納めた。

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