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一章3-3 聖騎士の凱旋(3)

 シュっと風を斬る音が鳴った。また一人、警備の目が無くなった。

 影は陰から陰へ移動していく。音はない。

「ん? 何か――――」

 違和感を感じたころには気を失っている。すぐに目覚めたとしてもしばらくは行動することができないだろう。

 影は陰に潜み移動していく。目的地へ最適な道を最短距離で最速に。


 王宮の地下倉庫。最奥にある木製クローゼットの奥、木目に合わせて作られた扉を開けてから、ウルは一言も発さず考えることもせず、決めた道を決めた通りに進んでいた。

 そこから一度地上へとあがると、また別のところから地下へと降りる。途中で何人か切り捨てたが、数を数えることも目的を聞くこともなく粛々と隠蔽して先へ進んでいた。命は奪っていない。

 降りる場所は地下倉庫へと繋がっていない。先にあるのは地下牢だ。先に考えたハロルドの目的のためには、ウルの目的とする人物を殺さずにおいているはずだ。

 地下牢への入り口は一つではないが、地下牢へ入る扉は一つしかない。地下でつながり、一つの入り口に集束する。そのような形をとっている。門の前は厳重な警備が敷かれている。

 ウルは構わずに躍り出た。踏み込む足からも音はなく、風を切る音だけがついてくる。

 警備兵は全部で五人。もっといるが五人は互いに互いを意識の中にいる。全員を落とさなければすぐにばれることになる。そうなれば地下牢の中にいる人物に危害が加わる可能性がある。

 一息に近づき、まず初めに近付いてきたことに気付いた兵士に一閃。吹くはずのない風の音に気付いた兵士に向けて駆ける。

 残り全員を一人四歩。一歩で近づき一人につき一閃で気を失わせる。余計な時間を割く暇はない。倒れた兵士を隅に一箇所にまとめておく。

 門を開けるには鍵が必要となる。さすがに短期間で鍵を換えることはできない、それに王宮が占拠されている以上意味がない。

 予備の鍵の管理は近衛騎士が預かっている。管理している場所にはすでに寄って鍵は手に入れてある。

 牢の中へ侵入し、奥へと進む。最奥にウルが目的とする御方が鎖に繋がれた状態でいた。服は汚れているが傷はほとんど見受けられない。

 フェルディナント王国、国王オズワルド・フェルディナント・アジェストは目を見開いて現れたウルを見ていた。すぐに膝をたて頭をたれるウルは言葉を待っていた。

「面をあげよ」

 オズワルドの小さく抑えた声を聞いて、ウルは顔を上げた。しかし言葉を発さない。

「我が友よ。しばらく見ない間に少し老けたか?」

 はいと短く返答する。

「お主がここにいるということは娘とは出会えたようだな」

「はっ。無事にお迎えすることができました。今は村の者達に護っていただいております」

「そうか……よかった」

「騎士としての役目を果たしました。友としての役目も果たすことができた」

「忘れてないよ、ありがとう」

 悠長にしている暇はない。だがウルはオズワルドの門を開けようとはしない。牢に閉じ込められているのが王一人だけであるからだ。

 オズワルドもウルが考えていることが分かっているのか、連れ出すように命令することはない。

「これからどうする。お前なら帰ることもできるであろう?」

 できる。言い切ることのできる実力がウルにはある。

 だが。

「ハロルド王子に会いに行こうかと思います。きっと彼は私を探している」

「だろうな。我が騎士よ、この国を頼んだ」

 御意と頭を下げた後、立ち上がり背を向ける。行くのだ、ハロルドが待つ場所へ。

 だがオズワルドは待てとウルを止めた。

「我が友よ、ハロルド王子をどうか殺さないでやってくれ。オーベンブルグ王は上昇志向の強い方だ。ハロルドはお前に負ける前から国に居場所がなく、敗戦して王からも見放された」

 だからとオズワルドは目の前にいる友に頭を下げる。

「ハロルドはフェルディナント国の被害者だ、見捨てる訳にはいかない。今は仇なす者でもあるが、せめて殺さずに生かす方法を見つけだしてやってくれ」

 背を向けたままのウルは何も返さなかった。かつて娘の安否を知らせることを頼まれたときにそうしたように、無言を返したのだ。

 去っていく頼もしい背中をみつめ、オズワルドは微笑む。出会った頃と何一つ変わることのない友の姿をみて、ようやく覚悟が決めることができたのだ。

 オズワルドはただ黙り真っ直ぐ前を見つめ、時を待ち続ける。

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