一章3-2 聖騎士の凱旋(2)
王宮周辺を囲うようにある壁。ソレは正面に設置されている大きな門を使わなければ出入りを不可能にさせている。
門には矢や剣が多く刺さっているが閉ざされている。前にはこの国の門番はおらず、オーベンブルグの兵士が三人ほど立っていた。正面からの突入は愚策といえる。
正面前の建物の陰に隠れているウルは止めていた息を吐き出した。
「やれやれ、意味のないことをするものだ」
できるだけ隠密に、できるだけ安全に、途中までついてきたフェザーがウルに言ったことだ。彼女なりに彼の命を第一に考えてのことだ。それがウルという人間の行動を制限している。
どうするか、ウルは行動を考えながら敵の顔を思い浮かべた。オーベンブルグと聞いて、この無駄な占領をする人間、思いあたる人間は一人だ。統制された軍隊において唯一自分勝手に行動できる役割、それは指揮官だ。
そしてフェルディナントに無駄な占領を行う。ウルには一人しか思い当たらない。
「ハロルド皇太子でしょうね。目的は私だろう、……見つかる訳にはいかないな」
一気に思いを纏め上げる。幸い入口が正面にしかない城へ入る方法は考えついている。幼い王女に外で味方をつけさせるために用意した抜け道がある。ばれることはないはずだ。
移動する。王宮の外にある抜け道の出口は正面の裏側にある。裏側にも街は発展しており家が立ち並んでいる。その一軒にウルは入る。
家の中には誰もいない。ここはずっと昔から誰も住んでいないが、書類上ここには人が住んでいることになっている。それは秘密裏に王族がこの家を押さえているからだ。
だが、人が入った残り香がある。誰かがここにきて綺麗にしていったのだろう。中央に置かれている机の上には簡単な食事がおいてある、まだ暖かい。
罠かと考えてそれを打ち消す。他国の者が知っているわけがない。この家のことを知っている人間も多くない、数は絞られている。そして、このタイミングで料理を持ってくることのできるのは一人だけだ。
以降は何も考えずご飯を口に運ぶ。ほとんど味は感じていない。もともと食事を楽しむようなことはできない性格だ、口に入り栄養になりさえすれば問題ない。誰かに食べさせるために味にはこだわることもあるが、普段はほとんどご飯を流し込むだけだ。
腹ごしらえを済ませて脇に整えてあるソファに座り考える、というよりは思い出す。王宮内にある部屋の配置や監視する際に絶対に陰となる位置、そのすべてを頭の中に焼き付ける。思い出すまでもなく位置が把握できるように。
いつの間にか閉じた目を開ける。長いする気はない。机を横に移し、床に一箇所だけある凹んだ位置に手をいれ持ち上げる。そこに王宮への抜け道が現れた。身を滑り込ませて入口を閉じる。中は闇に包まれている。
「相変わらず暗いな」
ふっと笑いを零した音が闇に溶け込んだ。お転婆ともいえた姫がこの真っ暗な道を毎度のように通っていたのだ。多いときは何日も連続していた。その時はランプなどを持って明るくしていたようだが、それでも閉塞感はあっただろう。
ウルは真っ暗な闇を突き進む。目を閉じていても通路はわかる。姫が抜け道を通った回数分、彼もここを通っていたのだ。
「さて、無駄な考えはここまでだ」
漆黒の闇を突き進み、通路の出口へとたどり着く。ここからは余計な考えは削ぎ落とす。神経を研ぎ澄ます。
心の中で最後の考えを言う。
主よ、私を見ていてくれ。
抜け道の出口をそっと押し開いた。




