一章3-1 聖騎士の凱旋(1)
「やっと目障りなフェルディナント王国を滅ぼすことができた。これで戦争に反対する国はない。これからはオーベルングの時代が始まるのだ!」
フェルディナント王宮の最奥、玉座の間で隣国皇太子ハロルド・オーベルング・ジェイナスは高らかに笑っていた。
玉座の前にはオーベルング軍の面々が整列し、直立不動で立っている。
オーベルング王国は軍事力のある国である。しかし国としての影響力は低く、フェルディナント王が隣り合う数カ国との間に結んだ相互協力するための条約により、活動が狭められていた。一国に対して戦争を引き起こせば、回りのすべての国が敵となるような措置が行われるからだ。
ゆえに今まで手を出せずにいたのだが、オーベルングはその条約に加入していない国と組み、この地域全土を支配下に治めようとしていた。フェルディナントの周辺国家はすでに占領を済ませている。
「王を脅してできるだけ穏便にことを続けてきたからな。他国に知らされないように国境付近にも見張りを立たせて、随分兵力を削られたが、こんな弱小国家を落とすくらいなら十分に事足りるだけの兵器を我々は持っている」
この場にいる人間は騎士ではない。騎士とは王に忠誠を誓い、自らが掲げる誓いの中で戦いに赴く者たちである。だが彼らは違う。給金を対価に仕事として戦いへ赴く兵士だ。彼らに誓いなどない。ただ命令されるままに動く人形。
彼らが使うものは剣ではない。腰から下げられているものは確かに剣ではあるが、武器として使用されていない。慣習的に持つ一つの装飾品だ。本当の武器は剣とは逆の腰につくホルスターに収められた銃、未だ大量生産されていないはずのそれをオーベルングは軍人すべてに支給していた。
「剣で戦う時代は終わったのだ。これからは剣を交えず、銃で戦う時代になったのだ! いつまでも時代錯誤の剣を持つ国は滅びてしまえばいい!」
「ハロルド殿下、国王と王妃の幽閉完了いたしました」
大きな扉を開けて入ってきた兵士は仕事の報告をする。事務的な口調には感情など一切介していない。
「それと要注意人物の掃除の件ですが、リストの中二人、王宮内部を隈無く探しても見つかりませんでした」
「ちゃんと探したのか?」
「はっ! 一人は任務にでて消息を絶ったという書類が見つかりましたので、おそらく殉職したのではないかと。もう一人は第一王女ですが、こちらも消息がつかめません。捜索を続行いたしますか?」
「続けろ。王女の方はどうなっていても構わん、国が滅ぶのだ今更王族などどうでもよい。だがもう一人には返しきれないほどの借りがある。死体でも構わん。墓を掘り起こしてでも連れてこい!」
入ってきた兵士は敬礼をして、身を翻す。
ハロルドはカツカツと苛立たしげに足を鳴らし、ぼりぼりと頭を掻く。思い通りにことが運ばないときの癖であった。そんな姿を見ても兵士達は一言も漏らさず直立し続ける。
フェルディナント王国以外の国は傀儡のような立場をさせていたが、ハロルドは否が応にもフェルディナントだけは滅ぼすつもりであった。
以前にも同じように攻めることがある。そのときは真っ先にフェルディナント王国を攻め落とそうとした。ハロルドが始めて参加した戦争だ。勝利を飾り晴れ晴れしく凱旋するつもりだった。始まる前から勝敗が見えるほど圧倒的な戦力差。白星つけるだけの初陣となる、はずだった。
だがハロルドにとっては悪夢のような戦争になる。次々と勝利を収め、王国の城下町まで後僅かというところまで、攻め込んでいた。援軍が来る前に決着がつく、はずだった。
たった一人の騎士が攻め来るオーベルング軍数百の兵士を迎え撃ち、援軍が来るまでの間守りぬいたのだ。
白星となるはずだった初陣は黒星となり、凱旋どころかボロボロになって帰還した。ハロルドは王からは糾弾され、肩身の狭い思いをさせられることになる。
すべては立ち塞がった騎士が悪い、ハロルドは一日も撤退を余儀なくされた日のことを忘れたことはない。いつか必ず復讐してやると思っていた。
騎士の名はウル・アルカディア、当時は一介の騎士でしかなかった男だ。
「ヤツの前で王を殺し、騎士の誇りとやらと共に殺してやる」
玉座に座り高らかに笑う。すでに国としてフェルディナントは終わっている。この野望はハロルドの憂さ晴らしでしかない。どちらに転ぼうが国としてはもう滅びゆくしかないのだ。
奇跡が起きないかぎり。数百の兵士を一人で相手にするよりも無理難題な奇跡を起こさない限り、フェルディナントは滅ぶことだろう。
誰もがそんな奇跡など起きないと思っていた。
書いたと思ったフラグが書かれてなかったでござる。
ジャンル分けがよくわからなかったので、ハイファンタジーにしましたです。




