一章2-8 彼女の願い(4)
アンジェリカが夢を見ているころ、岩場の上に座るルナは空を見上げていた。
幼いアンジェリカの騎士になると約束した日を一日も忘れることはない。その日からずっと騎士になるためだけに生きてきた。
「――――何も、変わってなかったな」
まっすぐな目をしていた。――――変わった。自分に対して迷いがなくなっている。
村の大人を見ても恐怖するどころか遠慮していた。――――変わった。子供のように無邪気ではなくなっている。
背が少しだけ高くなって髪も伸び口調が固くなっていた。――――変わった。大人の魅力が徐々に出始めている。
――――変わらない。『非人類』も平等に人間として見ていた。
変わらない生き方が、揺るがない想いが、アンジェリカにとって変えることのできないものということだ。
ルナにも同じように変えることのできないものを持っている。
騎士であること。それは誰に仕える騎士でもいいのではない、ただの少女としてのアンジェリカにのみ仕える騎士であること。
曇り空の下で出会った少女に誓った。彼が唯一持つ願い。
それが今叶っている。
「友達か」
言葉にだすが、ルナには友達というものがどのような存在であるのか理解することはできない。それを持ったことがない、経験がないがゆえに知らない。演じることもできない。
同時に暖かい言葉であるとも感じていた。知ることができればもっとアンジェリカのためになれる。ルナにとってはそれだけだ。
見上げた空に鳥が飛んでいる。夜に飛び回る鳥は限られている。何日も何ヶ月も何年もこの岩場の上で見上げてきたのだ、どんな鳥が飛んでいるのかもわかっている。
しかし、この鳥は違う。鳥のように飛べる翼を持っているが鳥ではない。
「アンジェの様子はどうですか?」
「喋る鳥なんていても困るな。それが口煩いと尚更だ」
「どういう意味かな?」
空から舞い降りてくるごとに形がわかってくる。点のように小さい影はやがて広がり大きな翼を持った人間の形になっていく。
下りてきてかけられた言葉の返事にご立腹なのか、岩場の上に足をつけるなりルナの頭を側面からぐりぐりと捻るのはフェザーだった。
彼女は手を離してルナの隣に座り、大きな翼を折りたたんだ。
「ウルを助けに行くと決めたよ。皆も力を貸すって」
「そうなんだ」
「フェザーはどうする?」
ルナはフェザーとウルの関係を知っている。その上で聞いた。
助けにいくとはいっても、ウルが生きているという保障はどこにもない。彼の安否をその目で確認することになるのだ。
黙ったまま空を見上げるフェザーをルナは横目に見る。目を下に向けて体育座りで口もとまで腕にうずめている彼女は悩んでいるように見える。
「待っていてもいいんだぞ」
「行きますよ。みんなとは行きませんけど。私は彼を見届けないと」
そうか、とルナはそれ以上は聞こうとはしなかった。
だが最後にフェザーは独り言のように呟く声が耳にはいった。
「死ぬときは一緒と、私も騎士として約束しましたもの」
二人は岩場の上で代わる代わる仮眠をとり、そして夜が明ける。ウルを助け出す一日が始まる。




