一章2-5 彼女の願い(1)
岩場の上に立ったアンジェリカは空を見上げた。無数の星が輝き、その中心に満月がある。
起きてからまだ一日も経っていない。そのことにアンジェリカは不思議な気持ちになった。いろいろなことを話されて、もう何年もここにいるような錯覚すら彼女の中にはあったのだ。
下を見ると宴会がまだ続いている。この中に何人がアンジェリカに付いてきてくれるのだろうか。彼女の胸中では不安と恐怖が渦巻いていた。
ウルが背中を支えてくれたことで、暗い渦の中で一つだけ希望が射していた。
「本当に短い間だったけど、私はウルとも一緒に過ごしたい」
名も無き村にきてからアンジェリカが皆から感じたものは、ウルが事前に作り出してくれていたものだと朧気に分かっていた。
「だから一緒にウルを助けにいきませんか? みんなでならきっとできるはずだから!」
両手をぐっと握りしめる。
「私はルナと二人だって行きます。止められたって行きます」
「止めませんよ。でも私達はウルからあなたを護るように言われているのです」
岩場の下からディグマンが言った。腰を手に当て、見上げている。
「だからアンジェが行くならお供します」
「ありがとう、ございます」
「ですが、今日はお休みになってください。ウルなら大丈夫です」
危険は今にも危険に陥ろうとしている。それを考えれば今すぐにでも出たほうがいいはずだ。
だがディグマンは一日待つと言った。それがどのような理由によるものか。
「危険とわかっていながら送り出すわけにはいきません。一度だけ使える秘策があります、それを使いましょう。その先にウルが待っているはずです」
「本当ですか? 本当にそんな方法があるんですか?」
「私はウルを信じています」
ディグマンの強い眼差しから、どれほど信頼しているかは明白だ。それを感じたアンジェリカは一度うなづいた。
「私もウルを信じます」
明日ウルを取り戻す。名も無き村にはウルの存在が必要だ。
今までどんな生活がここにあったのか、それをアンジェリカが知る術はない。だがここにいる全員にウルが必要なことは、ここにきた人間は全員知ることができるだろう。
「明日、必ずウルを助けましょう」
「はい。アンジェがそれを望むのであれば、私達はあなたに従います、私達の意志で」
「よろしくお願いします」
話している間に集まっていた面々は、その言葉に「応っ!」と答えた。
全員がうなづいてくれた。まだアンジェリカのことを姫として見ているからだと、彼女自身感じているが、それでも頷いてくれたことが純粋にうれしかった。
空を見上げると、満月がさっきよりも綺麗に輝いていた。その周りには反射して光る星が瞬いている。




