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一章2-3 姫と非人類(3)

「アンジェの近くにいてあげないのですか?」

 フェザーは扉の外で直立するルナに声をかけた。彼は両腕を皮の帯で包み、凶器を隠している。普段の姿だ。

「僕はアンジェリカの騎士だ。彼女が望まないかぎり近くにはいれない」

「あなたは友達でしょう?」

「友達だとどう接すればいいか余計にわからない」

「師が師なら弟子も弟子ね。ほんと似た者同士なんだから」

 家の外壁に背を預け空を見る。雲一つ無い空は青くどこまでも続いていた。

「ウルがいなくなって寂しいか?」

 ぶっきらぼうにルナが言った。空を見上げたまま黙るフェザーを心配しているようだ。その問いには何も返答はなく静かに時間が過ぎていく。

 二人の前にある道路は舗装こそされていないが邪魔な木材は脇に除けられ、辛うじてそこが道であることが分かるようになっている。ウルがここに来て最初にしたのが道の整備だった。邪魔な木材は選別し家を建てるために再利用した。

 理由は本人しか分からない。アンジェリカを迎えるためだったのか、共に非人類と作業することで親睦を深めようとしたのか、家を建てる過程で結果的にそうなったのか、どれでも同じことだ。

 ウルはもう村にはいない。

「さあ、どうでしょう。まだ分かりません」

「……フェザーも大概不器用だな」

 風がふいた。フェザーが大きな翼を広げて起きた風だ。美しい白が光を反射して神々しく見える。

「飛ぶのか?」

「ええ、少しだけ。日が暮れる前には戻りますよ。帰ってきたら三人でご飯を食べましょう」

「分かった。三人でご飯を食べよう」

 一度羽ばたき、二度目で宙に上がった。数度羽ばたき滞空した後、フェザーはウルが向かった先に向かって滑空していく。彼女の速度ならすぐに追いつくことだろう。

 三人とフェザーは言った。だから彼女は騎士を連れ戻すために行ったのではない。受け入れた彼女には手段がないのだ。

 何をしに行ったのかはルナには分からないが、きっとこれからのために行ったのだろう。そう結論した。考えられることに手を出すのはフェザーの癖だった。

 中でアンジェリカとフェザーがどんな話をしたかルナには分からない。だがフェザーがウルのために何かを言ったことだけはわかる。彼女はここにもともと住んでいた訳ではなく、ウルに連れられて名も無き村にきたからだ。

 フェザーは間違いなくウルを含めた未来を思い描いている。

 その上で、今はウルの好きなようにさせるつもりだ。人数を強調したのは、いずれ四人で食卓を囲みたいという願望からだ。

 直立不動のルナは目を閉じる。自分に己が信念のために動けるかと。

 ――愚問だ。アンジェリカと初めて出会った時からルナの心は決まっている。


 アンジェリカのために剣を捧げる。初めて醜い両腕を美しい言い救ってくれた彼女ならば、喜んでこの命を使う。


 今はアンジェリカが自分で為すことを決めるまで待つ。彼女を護りながら。

 目を開けると遠目にディグマン達が歩いてくるのが見えた。ご飯をもらいにきたのだろう。普段は岩場の近くで炊事をしているが、今日はアンジェリカがいるので全員分をこの建物で作っている。人数は十人前後、全員で食べるには家が狭する。何回かに分けるようだ。

「どうしたルナ、こんなところに立って」

「入るのは少し待ってくれ。今アンジェが悩んでいるんだ」

 ウルにそう言われて、ディグマン達は立ち止まった。各々顔を見合わせてからニッと悪戯っぽい笑顔をする。屈強な男達が揃ってそんな笑顔をする姿は壮観だった。

 代表してディグマンが前に進み出た。

「ルナ。それは無理だ。みんな腹が減ってる。我慢できない」

「ちょ、待って!」

 止めるのが遅かった。すでに家の扉に太い手をかけたディグマンは制止を無視して中に入る。

 驚いて振り返るアンジェリカの顔が全員を出迎えた。

 ディグマンは中に入り、キッチンに用意してある巨大な寸胴を太い手で掴み取って言う。

「今日は天気が良い、外で食べましょう」

 青い空はみんなを見下ろしている。遠くの雲はまだまだこない。

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