昼食時間です。
屋敷の中は掃き清められ、掃除が行き届いていた。古い家具や調度品が品よく並んでいる。ミライさんは一番手前の扉を開けると俺を中に招き入れる。
何度も入っているそこは食堂になっていて、奥に台所がある。そこでミライさんはいつも見たことの無い食事を振舞ってくれるのだ。
「お疲れさまでございます。未来様、イシューさん」
「ただいま、アロマ」
「お邪魔します、アロマさん」
食堂に入るといつものように一人の女性が出迎えてくれる。アッシュブロンドの髪を動きの邪魔にならないように頭の後ろに丸くまとめている。確かミライさんが「お団子頭」とかって言ってたな。
「お食事の支度は出来ております。どうぞ、お掛けになってください」
「ありがとう、アロマ」
「いつも、すみません」
俺の言葉にアロマさんはふんわりと柔らかい笑みを浮かべる。思わず心臓が跳ねる。ミライさんも可愛らしい人だけど、アロマさんは儚げな美人って感じで俺は妙にドキドキする。
「アロマ、私のレシピで作れた?」
「はい、勿論でございます」
アロマさんはミライさんの言葉に頷くと俺たちに冷たい水を置いて台所に向かった。作った料理にもう一度火を入れているのか香ばしい香りが漂ってきて俺のお腹が「くぅ」と音を立てた。
「ふふ、お腹空いたね。イシュー君」
「はい…すみません」
俺はお腹の音を聞かれちょっと恥ずかしく俯くと顔を下げた瞬間ミライさんのお腹から「クーキュルキュル」という音が鳴った。
「………」
「………」
俺はそっと顔を上げてミライさんを見るとミライさんは目を逸らしていた。
その様子が可笑しくて俺は小さく笑いを洩らした。
「ぷっ…くく」
「…笑わないでよ…もう」
「だって、ミライさんもお腹…」
「私もお腹空いたんだもの、仕方ないじゃない?」
俺たちはどちらともなく顔を見合わせ小さく吹き出した。どっちもどっちだろう。そんな俺たちの前に温められて湯気を立てている料理が並べられる。
紫の色が鮮やかな「ナス」という野菜。それに斜めに切れ込みが入れられ薄らと焼き色がついている。油で焼いたのか艶々と紫の色が光っていた。そこにアロマさんが黒っぽい液体をかける。液体の中には黄色っぽい何かを摩り下ろしてあるものが混ざっていてナスに掛けるといい香りが広がった。
そして、目の前に置かれたのは真っ白なお米。この辺ではあまり作られていない穀物らしく俺はこの辺で見たことがない。ふっくらとしたお米からは微かに甘い香りがする。
それとは別のお椀には、これまた黒い液体が注がれていたが、こちらからは何とも言えない良い香りがした。その横の皿に白くて長いものがクルリと丸められていくつか乗せられていた。
その他にも見たことの無い食材で出来た食事が並ぶ。
「どうぞ、召し上がってください」
「「いただきます」」
俺とミライさんは手を合わせてから食事を食べ始める。
まず最初に手を伸ばしたのは真っ白なお米だ。何もつけず、そのまま口に運ぶ。もちもちとした食感と噛めば噛むほど甘味が増したお米はこれだけで十分美味しい。二口、三口とお米だけ食べると俺は今度は紫の色が鮮やかなナスに手を付ける。ナスを口に入れると柔らかさと熱さにちょっと驚くがナスの甘味と黒っぽい液体のしょっぱさが何とも言えない。そしてピリリと辛味がある。鼻に抜けるこの香りは…
「生姜、ですか?」
「そうだよ、ナスの生姜醤油」
「お口に合いませんでしたか?」
「いえ、美味しいです」
「ご飯と一緒に食べると、もっと美味しいよ」
ミライさんに言われ俺は生姜醤油をかけられたナスを食べ、白いご飯を食べる。辛味がお米の甘味とよく合った。むしろ生姜醤油とお米だけでも美味しいと思う。
俺は美味しい食事に夢中になって食べた。
ミライさんと出会ってからこうして美味しいものが食べられて、しかもお金ももらえて…本当に俺は運が良かったとしみじみ思う。
あと、お椀に入ってたのは醤油じゃなくて「めんつゆ」っていうらしい。一緒にあった白くて長いのは「そうめん」暑い時は食欲が落ちるけど、あれだったら暑くても食べられそうだ。そう言ったらミライさんは笑って「やっぱり暑いときは誰だってそうめん食べたいよねー」といって笑っていた。
アロマさんは美味しかったとミライさんに褒められて嬉しそうに頬を緩めていた。その笑顔を見たら何人の男が惚れるだろうかと真剣に考えてしまった。




