第316話:新部長
次の月曜日。
小百合が部室に遅れてきた。
「さゆりん、部室の鍵が空いてないよ」
部室の前で待っていた由香が、困惑した表情で今来た小百合に話しかける。
「ごめんなさい、今空けるわ」
小百合がポケットから鍵を出し、急いで鍵穴に差し込んだ。
「さゆりんが鍵を持ってるって……」
「お昼に東堂先生から連絡があって。『綾乃は昨日限りで部を辞めた。今日からお前が新しい部長だ』って……」
「え……」
驚く由香を後目に、ドアを空ける。
しかし同時に、由香は紅帝楼を去っていくあの後ろ姿に納得も出来た。
綾乃らしい、爽やかな幕引きともいえる。
由香と小百合は、綾乃がいなくなった部室へと入った。
「部室にあるものは雀卓からティーセットまで、全て寄付するそうよ」
あとは、全員が揃ったところで、もう一度同じ説明をしよう。そう思った小百合である。
───やがて今日子、紗枝、莉子と続々と部室にやって来た。
全員が集まったところで、小百合は再度皆に同じ説明をした。
◇◆◇◆◇
「これからは西浦先輩のことを部長と呼んだ方がいいですかね?」
牌を切りながら、莉子が疑問を問いかける。
「無理に部長と呼ぶ必要はないわ。今まで通り西浦先輩で構わないわよ」
由香・今日子・紗枝・莉子が打っているのを後ろで見ていた小百合が答える。
それを聞いてどこか、ホッとしたような表情を見せる莉子。
「それは良かったです。私も西浦先輩の方が呼びやすいので……」
一萬を切ったその時だった。
「ロン。チャンタ・三色・ドラドラ。12,000」
突然牌を倒したのは由香だった。どうやら息を殺してのダマテンだったようだ。
「莉子、ダメだよ。捨て牌からして見え見えのチャンタじゃん」
同卓していた紗枝が口を尖らせた。
莉子にしては耳が痛いダメ出しだ。しかもおしゃべりに夢中になっているところへの、今のようなダマテンにはどうしようもない。
「まあまあ紗枝ちゃん。最初は夢中で捨て牌まで気が回らないもんだよ。紗枝ちゃんだって初心者の頃はそうだったでしょ?」
点棒を受け取りながら、紗枝を嗜める由香である。
「それは……そうですが」
その初心者からダマテンで打ち取ったのはあなたでしょう───
そう言い続けたかったのを、紗枝はグッと言葉を飲み込んだ。
「東1局のハネ満くらいで大口叩いてんじゃないわよ由香。リーチッ!」
今度は今日子のリーチ。由香と違い、面前では当たり牌が5枚以上残っていれば、役があろうと基本リーチをかけるのが今日子の打ち方である。
「おっと。リーチきたね」
平然と厳しいところを通す由香。
「つ、強いわね…」
「通るんでしょ?」
以前のように由香を“大物手ばかり狙う初心者崩れ”という見方はしていないが、それにしてもどういう根拠で通したのか聞きたくなってくる今日子であった。




