第315話:オーラス・2
イーシャンテンながら、小百合には若干の後悔があった。
やはりダブ南を鳴かせたのは失敗だったか。
少なくとも綾乃に“アガる足掛かり”を作らせることにはならなかったはずだ。
(鳴かせなければ南野さんが連荘していたかも知れない…。今更どうこう言っても仕方ないわ)
そんな葛藤を小百合がしていた時。
由香が珍しく長考してから牌を切った。切り出しはなんら特徴のない一筒。
とはいえ不気味である。ダマテンの可能性がない訳ではない。
綾乃は平然と二萬を通す。
(間違いないわ…南野さんはどうか分からないけど、部長はテンパイしている)
今日子から六萬が出た。小百合はチーをし、二索を切ってテンパイ。
このチーテンで、小百合と綾乃の両者に流れる緊張の空気は最高峰に達した。
紅帝楼は後ろ見NGではないが、紗枝も空気に飲まれ、見て回る余裕はないようだ。
(おそらく南野はまだ張ってない。手は遅いようだ。だとすれば白河先輩と小百合の一騎打ちになる……)
「すまない。見せてもらっていいか?」
「どうぞどうぞ」
和弥の問いに、綾乃は何とも気軽に応じた。小百合・由香・今日子の3人は押し黙ったままである。
(南野も手が遅い…まだリャンシャンテンか)
和弥の予想通り、由香の手は遅かった。続いて綾乃の後ろに回った。
(思った通りだ…。ダブ南、赤2の7,700)
今日子の手は壊滅的だ。今日金銭を賭けていないのを、今日子は神に感謝すべきだろう。
二萬と一索が一枚ずつ河に切られており、ドラの七索は2枚見えている。赤五萬は持っており、できれば直撃を狙い。
カーディガンの袖を少し上げて、小百合はツモ山に手を伸ばす。
(……!?)
親指の腹にザラッとした感触があった。小百合はそっと、手牌の脇に六索を置いた。
「……ツモ。300・500」
綾乃はテンパイ形を確認したあと、フフッと笑い出す。
「あーあ、負けちゃったっ!!」
自分なりの線引きがあるのだろう。綾乃は独り、不敵に微笑むのだった。
「やけにあっさり敗北を認めるんですね」
小百合には意外なまでの、綾乃の清々しい態度であった。
「負けは負けだからね。ここでギャーギャー騒ぐほど、私は子供じゃないよ」
バッグから財布を取り出し、卓の上に10,000円を置く。
「これ、ゲーム代の足しにしてよ。んじゃ」
さすがに綾乃を引き止める者は誰もいない。綾乃は和弥を一瞥するとそのまま振り向きもせず、紅帝楼を出ていった。
「………終わった。のね……」
言い終えると小百合も、ぐったりと脱力してしまう。
「………全く。付き合わされるあたしらの身にもなってほしいわ」
「ほーんと。胃が痛くてもう…」
今日子と由香は相当に苦痛だったようで、小百合同様に脱力してしまった。
(部長、これで諦めてくれるかしら……?)
チラリと和弥を見る小百合。
(……さあな。ただ引き際は心得ているようだが)
目で返事を返す和弥だった。




