第314話:オーラス・1
完全に綾乃を突き放す展開になった。
南4局。ドラは七索。由香の連荘がなければ、綾乃が逆転の一打を撃たなければ、小百合の勝利ということになる。
(手は悪くないわ…!)
アガってこの勝負にケリをつける。その為に尽力するのが、自分にできることだろう。
第一ツモで引いたのはドラ隣りの八索。
(こちらも雀頭候補にしておくべきね)
六索を引けるとは限らない。小百合は心の中で呟いた。
とにかくチーテン、ポンテン、何でもありの配牌だ。聞くまでもなく、小百合は字牌の整理から始めることにした。
第一打に選んだのは、唯一私の役牌ではない東。親の由香に鳴かれるかもしれないと思ったが、声はかからなかった。
しかもツモが利いてくれた。三萬、五筒と立て続けに引き、早くも纏まり始めていた。
南と發を抱えているのは、他家を警戒しての判断だ。この局ダブ南となっている綾乃の河が一色系に見えたので、特に南だけは切れない。満貫以上のテンパイが入って、ようやく切るかどうかを考えてみるといったところか。
しかしこの手、現実的に考えてこの局で満貫以上を狙う理由はない。小百合は単に“アガればいい”のだ。
今日子あたりが安手なら差し込んでもいい。もっとも今日子も最下位から抜け出そうと、大きな手を狙っているようだが。
いずれにせよ、今日子のおこぼれを狙ってポンやチーを仕掛けるのもアリである。5巡目のツモ、小百合はぐっと力を込めて牌を引いた。
八索。このツモによって、小百合はタンヤオの可能性が一番高いという結論に達した。雀頭が二索とどちらになるか、は後から考えるといい。
6巡目のツモは九索でツモ切り。しかし次巡に二索を引くことができた。タンヤオに近づく絶好のツモだ。
流石に切る牌がなくなってきたので、ここは發切り。───運よく声はかからなかった。既に暗刻なのかもしれないが。
と、安心していたのも束の間。由香が切った八萬を綾乃が七・九萬の形でチーした。鳴いた綾乃を警戒するというのは当然、由香だって危険な萬子を切るに値する手となったということだ。用心するべきなのは言うまでもない。
一方の今日子はこの局ほとんどツモ切りを繰り返しており、河には一・九・字牌などの么九牌が並んでいる。引き続き不調のようだ。
全員の現状推測を終えたところで、小百合の7巡目のツモ番が回ってきた。引いてきた牌は、八索。
ここでもっとも危険な南に指をかける。
(そうよ…私がアガればいいだけ。勝負よ!)
小百合なりに、鳴かせまいと抱えていた役牌を切り出す基準は、仮に鳴かれても押し切れる手かどうかという点に尽きる。そのように考えたとき、ここでのドラは不要である。
今日子には期待出来ず、由香は連荘する気満々。そして綾乃も虎視眈々と逆転の一打を狙っているのだ。
ここには自分がアガる以外には決着は考えられない。
(通してっ!?)
南を強打する。
「……ポン」
綾乃にとってのダブ南を鳴かれた。これで綾乃はかなりアガりに近づいただろう。
しかし小百合には後悔はない。“いらないから切った”のだ。
私以外の全員がツモ切りし、再び小百合の番───二筒。
これでイーシャンテンなワケだが、さてテンパイに取ったらどうするか。役がある以上牌を曲げる必要はない。
さらに何かあった時綾乃のテンパイに対応できなくなる。加えて、綾乃が字牌と何かのシャボ待ちだと考えると、もう片方がノーケアなので放銃する確率はかなり高い。
(流石にリーチはないわ───)
小百合は索子か萬子のチーテンか、タテ引きで雀頭が出来ることを期待し、イーシャンテンを継続した。アガリの可能性は相当に薄いが、放銃すればその時点で絶望的な展開となってしまう。だったらこのまま大人しくして、危険を冒すことなくノーテン罰符を貰ったほうが賢明というものだろう。




