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第283話:伏兵

(顔に大物手と書いてある…)


 配牌から腐っていたこともあり、和弥は割り切ってオリている。

 一方の菱崎はイライラが募るばかりだった。


(俺がやり合いたいのはあの竜ヶ崎って奴だ……余計な邪魔をするんじゃねぇっ!!)


 麗美は視線を菱崎の手牌から、彼の下家に座っているリーチをかけた人物に移した。普段から紅帝楼(こうていろう)の常連客らしいそのサラリーマンは、ふう、と息を吐くと店員(メンバー)を掴まえブラックコーヒーを注文した。


「あ、ついでに俺も。カフェ・オレのノンシュガーお願いします」


 気負った態度もなくカフェ・オレを注文する和弥に(ここは改めて彼の“ホーム”なんだな)との思いを再認識する麗美であった。いろいろと話を訊きたい気持ちはあるが、いまは対局中。麗美は口を閉ざしたまま、麻雀のほうへと意識を向けた。


「ツモっ!!」


 ツモったサラリーマンが、ツモ牌をカタリと置く。


「メンタン・ツモ・ドラドラ。四本場で2,400・4,400」


 これは菱崎には痛い失点だった。脇のサラリーマンに満貫親っかぶりをアガられるなんて、計算外だったからだ。

 流れ本場が終わり、ようやく東4局。の12巡目、別のサラリーマンが随分と変則的な(ホー)でリーチをかけた。萬子(マンズ)が一枚も切られておらず、赤五索と赤五筒を含めた中張牌(チュンチョンパイ)が並べられている。

 本線は萬子染め。次点に七対子といった変則系の手だが、それならばドラである四索や赤牌は残してもおかしくない。そうなれば、考えられるのは四暗刻か。

 一方の菱崎の手牌は、こんな形だった。

挿絵(By みてみん)

 456の三色のイーシャンテン。筒子(ピンズ)が良形に育てば、索子(ソーズ)を落としていくという選択もできる残し方だ。点数はガクリと落ちてしまうことにはなるが、微差のトップを走っているならアガって局を流すことのほうが優先ではある。

 しかし、菱崎の次巡のツモはストレートにテンパイを取れる五索であった。問題は、どちらを切るかである。

 単純な広さでは、三萬切りの一・四・七萬待ち。しかしそうすると、三色が消えてしまう。それに何より、萬子は対面のリーチに厚い色である。他家からの出アガリが期待できないだけでない。


(一・四・七萬は既に大量に抱えられてしまっている可能性だって考えられるわ。ならばもう片方の三・六筒待ちかしら)


 こっちのほうなら、出アガリも十分考えられる。加えてどちらもまだ山に残っていそうなので、ツモアガリも期待できるだろう。

 だが、そのために必要なのは萬子を一枚も切っていないリーチ者に対しての一切り。だが、麗美は通るのではないかと判断した。他家の捨て牌と合わせて、二萬が既に4枚見えているからだ。さらに一萬そのものも下家が1枚切っているので、シャボ待ちもありえないということになる。

 無論単騎という可能性はある。だが、一の単騎待ちならわざわざあんな捨て牌でリーチをかけるとは思えないのだ。リーチと来た以上は、別のところの多面張なのではないか。

 どうやら菱崎は麗美と同じ考えに至ったようだ。彼は手牌の一番左端の牌を選んで抜き取り、河に打ち出した。


「ロン」


 サラリーマンは嘲笑にも似た微笑を浮かべると、パタリ、と手牌を倒した。

挿絵(By みてみん)

(あぁ、なるほど、そのセンがあったか───今は私も振っただろうね)


 麗美は感慨深い思いでふうっと息を吐いた。


「国士かよ……」


 国士無双をアガって大はしゃぎするサラリーマンを後目に渋面を作る菱崎だが、もうどうにもならない。


「誰かさんのトビでこれで俺が2勝だな」


 カフェ・オレを一口飲んだ和弥が呟いた。

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