第281話:九種九牌
2回戦目、東1局───。
今度は和弥が起家。菱崎は西家。
菱崎からすれば、長く続いているこのムードを2回戦でこそ止めたいところ。逆に言えば、和弥は高打点が期待できる親番で序盤から主導権を決めてしまいたいところだ。この東1局は、大きな分岐点になるかもしれない。
親である和弥が一枚ツモり、切り出す───ワケではなく、彼は静かに手牌を倒した。
「九種九牌。流局だ」
和弥のその宣言に、麗美は怪訝な思いを抱かずにはいられなかった。
雀頭はないが、実質的には北と九萬の国士無双一向聴。
(私だったら100回やって、100回国士狙うけど……)
しかし、すぐに納得のいく理由が思い浮かんだ。この麻雀の勝利条件は3勝すること。仮に国士に行ってテンパイしたとて、出和了りが期待できないのだ。
『和了れない役満より和了れる満貫』
綾乃から聞いた、和弥がいつも口にしてるという台詞。それならば不自由な国士にいくよりも、次局普通に満貫辺りを作って誰かから直撃したほうが確実───という考えなのか。
いや、結局直撃が条件ならば、国士でもいいような気がする。次の次が東3局なのだから、麗奈さんに親被りをさせることができるとはいえ、現状全員25,000点ではツモアガリによるラス落としはほぼ不可能だ。ならば国士にいったほうが、仮にツモったとしても和弥の連荘なのでチャンスは続くハズ。
(……本当に彼は何がしたいのだろう? まさかこの半荘はわざと菱崎くんに譲ってるとか、そんなことないよね?)
そんな胸中の困惑が、麗美の表情に出ていたらしい。和弥が麗美を見て微笑を浮かべながら言った。
「不可解なことをしているのは自分でも分かっているさ。でも、見てりゃ分かる」
「次は一本場だけど……必ずトップを取れる自信があるってこと…?」
「できなかったら、とんだ赤っ恥だな」
和弥はその言葉を最後に、会話を打ち切った。麗美としては、もっと詳細な説明が欲しかったのだが。
一人だけ置いてかれてるような心境のまま、オーラスは始められた。
和弥と菱崎の点差は現時点で無し。ツモアガリの場合、トップになるだけならば満貫で足りるが、それでは麗奈さんは二着で終了となるので、ラスに落とす場合は三倍満以上が必要となる。これは流石に現実的ではない。
直撃狙いとはいえ、そうなれば流石に菱崎も防御に回るハズ。
(彼ほどの打ち手が守りに入れば、当たり牌は切ってくれないと思うな…)
和弥は、どうするつもりなのか……
結局一本場は流局。次の東2局二本場も全員ノーテンの流局となった。
東3局三本場。ドラは二索。
親番である菱崎が九索切りからスタートさせる。両端のサラリーマンの配牌は、かなり苦しいものであった。お互いにドラが含まれる順子が配牌の時点で完成してはいるものの、他が酷い。塔子候補すら見つからない状態だ。
元々数合わせが役目だけに、2人はこの様子では難しいだろう。そろそろ三本場、やはり和弥に期待してしまう麗美である。
和弥お得意の速攻リーチがかかることもなく、場は静かに回っていった。




