第280話:先勝
東3局、和弥の親。ドラは一索。
「リーチ」
8巡目に、菱崎が赤五索を切って宣言した。
「ポン」
それを一発消し目的か、和弥がポンをする。
そして、上家が打・四萬。
「チー」
またも和弥が二・三萬で仕掛けた。
「ツモ」
「タンヤオ・赤1で1,000オール」
菱崎のリー棒を和弥が回収する。
「リー棒が無駄になったな」
(クッソ…)
誰が見ても分かるくらい、歯ぎしりをする菱崎である。
菱崎がイライラしているのは、観戦している麗美にも分かった。
(あくまで竜ヶ崎くんと戦う気できた菱崎くん……。でも最初から“4人で”打つつもりだった竜ヶ崎くん……。この違いは大きいね)
「そんなにカリカリするなよ。コーヒーでも頼んで落ち着いたらどうだ」
9巡目、全員に動きがないという静かな場況を見て、和弥が僅かに微笑みながら菱崎に言った。
「うっせ、余計なお世話だ……」
実際、機嫌が良くなる材料がないのだろう。手牌の進行が芳しくないのは、捨て牌を見るだけでもわかる。というより、この局菱崎はほとんどツモ切りを繰り返していた。
そして12巡目。菱崎が八萬をツモ切ったところで───
「ロン」
「タンピン・イーペーコー・ドラ・赤。一本場で12,300」
「うっ……」
ものの見事に振り込んでしまった菱崎である。
「うへえ。それでリーチに行かないとは。厳しいなカズちゃんは」
「親でプラスですしね。負けてたらリーチに行きましたが」
(方便だよね。安目でも11,600あるのだから、ここはダマで十分。それにしても菱崎くんは穏やかじゃないだろうね。リーチ合戦以外で親満に振り込んだなんて久々だろうし)
点棒を払い終わった菱崎は麗美でも聞き取れない、「ふざけた奴……」と言って口を尖らせると、つまらなさそうにそっぽを向いた。
実際問題、菱崎にしてみれば相当に痛い放銃だったハズ。自分の手が進まぬうちに親満を振り込んでしまい、暫定とはいえ最下位なのだから。
現状の点数状況は、和弥がダントツトップ。牌勢の優位も一気に和弥に傾きつつある。
(このまま終わると思うなよ竜ヶ崎っ!!)
拳を握りしめる菱崎だが、手は一向に冷えたままだった。
南1局。この局の決着は非常に早かった。4巡目に、菱崎がツモ和了りをしたのだ。
「400・700」
すぐに麗美は違和感を抱いた。なぜ、リーチしなかったのだろう。
(手変わり待ってる内にツモちゃったパターンかな?)
「ここからだ。ここから巻き返してやる」
「……期待してんぜ」
(ケ……余裕こきやがって。しゃーねえ、この半荘はくれてやる)
菱崎もこの半荘は捨てたようだ。本人ももう諦めたのだろう。
国士無双や純チャンばかり狙っている。
結局、1回戦目は和弥が勝利した。




