第278話:親流し
和弥と菱崎がフリー客を待っていると、常連サラリーマン2名が空き席に座り、いよいよ対局だ。
菱崎の起家スタート。
当然和弥は西家からのスタートだ。起家をあまり好まない和弥は、それだけで心が軽くなった。
ドラも西である。
(西を鳴ければ一番早いが、そうも上手くはいかないか…)
7巡目の和弥の手だ。
面前で纏める気はさらさらなかったにもかかわらず、鳴ける牌が出てこないまま巡目が進み、気付けば自分のツモだけで一向聴になっていた。西と九筒は初牌、二筒と六筒はそれぞれ一枚切れだ。
また、この局は珍しいことに両方の脇のサラリーマンもそれぞれ面前で手を進めていた。和弥の記憶では両者とも『親流しは南家の努め』と言っているタイプだけに遮二無二鳴いて流しに来ると思ったので、珍しい。
進め方はそれぞれだが、この局の目的は全員一致している。菱崎の親流しだ。そのためにも和弥は聴牌して脇の2人からも遠慮なく和了る予定だし、他の2人もそうするだろう。
しばらく停滞してしまったが、5巡が過ぎたところで四筒を引けた。カン二筒のダマテンに取る。
同巡、下家からリーチがかかった。
(親流しがメインテーマの東1局でリー棒を投げ出してくるとは、おそらく役無しなのだろう……)
ダマのままでは万が一当たり牌が出たときに当たれない。だからリーチなのだ。
(そして待ちは、索子一点。四・七索か、五・八索か、そのあたりだ)
リーチの直後、菱崎は引いてきた牌を見てしばし固まった。
(……一発で掴んだか)
だとすれば早速下家のリーチは効を奏したということになる。やがて菱崎は手出しで現物の五萬を切った。しかもただの五萬でなく、赤だった。
和弥は思わず、心のなかで安堵の溜め息を漏らした。聴牌を掻い潜って菱崎が追いついてしまったら───という不安がやはりあったからだ。しかし、いまの赤切りは完全に後退を意味している。ベタオリではないかもしれないが、確実に手が遅れたハズ。
続く上家は、手出しで3枚切れの白。安全牌として持っていたようだ。
そして和弥が───八索だった。
(よりによって……)
「……」
下家の捨て牌を見つめる。この八索は彼の本命のひとつだ。打てば“ロン”の声がかかる可能性は限りなく高いといえる。
しかし───考えてみれば和弥は25,000点持ちなので、この一撃でトビになる可能性は限りなく低い。役満でもない限りあり得えないだろう。
(まだ東1局だ…ハネ満くらいならなくれてやるっ!!)
和弥は八索を空中でくるりと反転させ、そのまま河に置いた。下家はツモ牌に手を伸ばしたが、微かな間があったように思えた。
やはり索子待ちに間違いはないのか当たり。しかし見逃したということは、彼は次局に持ち越すのではなく、この局で一気に決めてしまいたいというのはあるだろう。
下家の目がすっと細くなった。それから、彼は湧き上がってきた失望感をたっぷりと乗せてその牌を河に打ち出した。───二筒。
「ロンッ……」
まずは和弥の満貫スタートで幕を開ける。




