第276話:部室
「和弥クンって意外に情け深いトコあるよね。菱崎クンだっけ? の対戦欲求。てっきり蹴ると思ってた」
「あー、それあたしも思った。アイツがOKした瞬間『え?』って思ったもん」
月曜放課後の立川南麻雀部の部室。収納口に牌を落とす由香に、今日子が同調した。
今日は和弥はキックボクシングのジムに行っているので不在である。
「おそらくね。菱崎くんを少しは認めたってことじゃないかな」
卓上に競り上がる山を見ながら、ゲーミングチェアに座っていた綾乃も口を挟む。
「おそらく?」
「そりゃ、実際のところは分からないよ。でも、そう考えるのが一番自然だと思う。じゃなきゃ竜ヶ崎くんが受けるワケないもの」
その会話を聞きながら、小百合も思わず納得した。
和弥と知り合って本当によく思うのが、“上には上がいる”ということだ。3,000万のレートでも顔色を変えずに打つ和弥は、常人とは感覚が違うのだろう。
麻雀以前に、勝負に対する何かが自分たちとは違うのかも知れない。少なくとも、筒井よりは上と判断したのだろう。
小百合は綾乃の顔を見つめた。自分たちとは一学年上の綾乃も、和弥のように何か勝負を求めてるのだろうか。
「どうしたの小百合ちゃん?」
視線に気付き、綾乃がくすりと笑って訊いてきた。
「部長が麻雀始めるキッカケって、花澤さんでしたっけ」
小百合はそう言ってから、慌てて「話したくなければ無理にとは言いませんが……」と付け加えた。しかし綾乃は、なんでもない世間話でもするかのような軽い声調で話し始めた。
「そそ。私は子供の頃ハナちゃんに教えられたのよ。私の性格に合っていたんだろうね。すぐさま専門書とか買って憶えたよ」
「そ、そんな小さなころから専門書とか……?」
「うん、読めない漢字とか検索して調べたり。その流れでサイトとかも見るようになったり。いつの間にかハナちゃんに負けないくらい知識付けちゃった」
「………」
“人に歴史あり”とはいうが、やはりそれぞれ娯楽に麻雀を選んだ理由はあるものだ。
「でも───」
綾乃は言葉を続ける。
「あなたや由香ちゃん、今日子ちゃん、竜ヶ崎くん、紗枝ちゃん、莉子ちゃん、他にもたくさんの麻雀打ちと出会えたことは、心から嬉しいと思ってるよ。こればかりは麻雀打たなきゃあり得なかったことだからさ」
小百合はしばらくの間、綾乃の顔を不思議そうに見つめていた。
「なに?私何かまずいことを言ってしまった?」
───と、綾乃が不安を感じ始めたところで、小百合が陽気に笑い出す。
「いえ、部長らしい、と思いまして」
「えーと……褒められてるのかなそれ?」
「ええ。褒めてます」
小百合は緩やかに微笑むのだった。




