しゃーわせ
その日は綺麗な青空が広がっていて、私とみかんは笑いながら外に出た。
「みゃーこちゃん、今日はどこに行くの?」
オレンジ色のトレーナーを着たみかんは、自ら私の手を握ってくる。私は笑って、小さなポシェットをみかんに渡した。みかんは首をかしげてから、ポシェットの中身を覗き込む。
そこに入っているのは、みかんの拾ってきた十円玉や五円玉だった。
「これって……」
「それは、みかんのお金だから。みかんが好きなものを買えばいいんだよ。数えてみたらちょうど百円くらい貯まってたから、百均に何か買いに行こうか?」
私が笑うと、みかんはポシェットを握りしめて頷いた。
てっきりおもちゃを買うのだと思っていた私は、百均に着くや否やお菓子コーナーへと走るみかんを見て眼を丸くした。確かに彼女はお菓子も好きだけど、
「……ペンギンさんのお人形が欲しいって、言ってなかった?」
真剣な表情でお菓子を選ぶみかんに私が問いかけると、みかんはこちらを見上げて笑った。
「わたしがほしいものを、かうの!」
私は苦笑して、みかんが何を選ぶのかを見守った。
彼女が選んだのは結局、いつものロリポップだった。「それなら家にまだあるよ」と私が言っても、これを買うのだとみかんは譲らない。彼女の気が済むのならそれでいいやと、私はみかんと一緒にレジに並んだ。
十円玉ばかりを渡すみかんに、おばさん店員は嫌な顔せず応じてくれた。それから、
「あら、かわいい。お子さんですか?」
そう訊かれて閉口した。確かに私の年なら、みかんくらいの子供がいてもおかしくないけれど。
「いえ、あの、なんていうか……」
「ともだちなのー」
口ごもる私とは対照的に、はっきりと声を出すみかん。おばさん店員は私とみかんの顔を見比べて、けれど「あらそうなのー」と軽く受け流してくれた。
天気がよかったので、近くにある小さな公園に寄ってみる。狭いうえ、枯れた雑草だらけの整備されていない公園には、誰もいなかった。
私とみかんは煤けたブランコに座って、空を見上げた。しばらくすると隣からガサガサと袋の鳴る音が聞こえてきて、私はみかんの方に目をやった。
みかんは先ほど買ったロリポップの袋を開けて、中に手を突っ込んでいた。
「もう食べるの?」
苦笑する私の言葉には答えず、懸命に何かを探している。何を探しているのだろう、と思っていたら、彼女はようやく探し当てたそれを、私の眼前に突き出した。
それは、みかんの大好きな、オレンジ味のロリポップだった。
「あげる」
「え?」
「あげる」
「……ありがと」
彼女が手を引っこめようとしないので、私はそれを受け取った。
みかんは笑って、
「わたしが自分で買ったものだから、いちばんすきな味を、いちばんすきなひとに、あげるの」
そう言うと、勢いよくブランコをこぎ始めた。その顔はわずかに紅潮していて、私は眼を細める。
「……みゃーこちゃんは、しゃーわせに、なったの」
私は呟くようにそう言うと、オレンジ色の飴をポケットにしまってから、みかんのリズムに合わせるようにブランコをこぎ始めた。