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『悪の氷結花』、継母になる。2〜春を待ちわびて〜(仮)  作者: 葉月クロル


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2-2 秘密の話と遊撃隊

「ドナ、大切な話があります。ミミルカと共にわたしの部屋にいらっしゃい。お茶の準備もお願いね。夜だからハーブティーと軽いクッキーになさい」


 わたしはおさげ髪の側仕えに命じると、先に自室に戻った。子どもにとっては夜更けでも、大人にはまだまだこれからが本番なのだ。

 夜にカフェインを摂るのは美容に良くないから、身体に優しいハーブティーを指定したけれどね。もちろん、この世界にはまだカフェインの概念はないだろうから、奥様の気まぐれだと思われているかもしれないけれど。


 すぐにミミルカを伴ってやってきて、ドナが言った。


「そういえばルデル先生が言ってたけれど、シャロン様は最新の錬金術の研究を理解してるんですね。どうやって論文を手に入れたのかって、不思議がってましたよ」


「え? 錬金術?」


「お茶の中には、目を覚まして活動を活発にさせる成分があるんでしょ?」


「うっ」


 ぐぬぬ、錬金術、おまえの存在を忘れていたわ!  

 科学は進歩していなくても、その代わりに錬金術がいい線まで行ってたのね……。


「で、シャロン様がいろいろと変なことを知っているわけを、ようやく話してくれる気になったみたいですね。さあお聞きしましょうか、はいどうぞ!」


「……ドナ、さりげなく主導権を握ろうとするのはおやめ」


 わたしは主人《あるじ》らしくびしっと注意してから、ふたりを座らせた。


「これから話すことは、まだダリル様にも秘密にしていることです。決して漏らさないようになさい」


 夫にも話してないと知って、ドナとミミルカは表情を引き締めた。


「実はわたしには、シャロンとしての記憶の他に、別の人物の記憶と知識を持っています。そして、そこにはこの国の未来の情報もあります。ただし、わたしが干渉したために、未来はかなり変更されています。はい、ここまでで質問は?」


 わたしが一気に捲《まく》し立てると、ミミルカは「あの……申し訳ございません、まったく内容が理解できません」と困った表情になり、ドナは「なんですか、その省略しまくりの不思議物語は」と呆れた顔で言った。


 まあ、そりゃそうだわ。

 シャロンちゃんの頭がおかしくなっちゃったかーなんて言われないだけマシだわね。

 ドナとミミルカは続いて言った、


「でもまあ、ふわっとそういうものだと思っておけばいいんですね? 了解っすー」


「申し訳ございません、残念ながら理解は不可能ですが、事実として受け入れますわ」


 うおおい、うちの側仕えの順応性には心の中の関西人もびっくりやで!


「……いいの?」


 ふたりともこくりと頷く。

 さすがは信頼できる側仕えね。主人の言葉は絶対なのね。


「シャロン様がちょっと変なのは、昨日今日の話じゃないんで、慣れちゃってまーす」


「まあ、確かにそうですわね」


 うおおい!

 側仕えの鑑《かがみ》とか一瞬思ったけど取り消すわ。

 あと、ミミルカちゃんはドナに毒されすぎですよ!


 わたしはひとつ咳払いをして、ペースを取り戻す。


「そ、そう。まあ、今はそれでいいわ。ではその前提で話すわね。実はこの世界には、十四年後にとある危機が訪れるはずだったのよ。でも、わたしはそれを阻止できました。でも、その代わりなのか、今別の危機が来てしまったわ。次はこれを阻止します」


「はい。承知いたしました」


「なるほどねー、世界を守るためにがんばるぞー、おー!」


「軽っ! あなたたち、本当にわかってる? わたしは本気で言っているのよ? ……でね、おそらく鍵になるのは、ジェレミーとミリアムの特殊な能力よ。あの子たちはとても珍しい魔法が使えるの」


 わたしはふたりが持つユニークな力について説明をした。ふたりは「なるほど」と頷いて、動じない。さすがはわたしの側仕えよ。


「というわけで、わたし、ルデル先生、ジェレミー、ミリアムの四人で魔法遊撃隊を結成します。協力をお願いね?」




 数日後に「あなたは一体なにを始める気なのだ?」と呆れ半分恐れ半分のダリル様に許可をもらい、騎士団の演習に使う広い草原に来ていた。今は雪原だけどね。

 馬車に乗って到着したわたし、ドナとミミルカ、ルデル先生、そして遠足気分のジェレミーとミリアムとお子さま担当のマイラで、遠くに見える訓練中の騎士団員たちを見る。


 実戦さながらの訓練をするために、重くて動きにくい金属鎧を着ているというのに、それぞれの魔力をすべて筋肉にたぎらせている騎士たちは、驚くべき身体能力を持ち、巧みな剣捌《けんさば》きで模擬戦をしている。

 ちなみにダリル様は、いくらかは脳にも魔力をまわしている。おかげで魔剣が使えるのだ。


 わたしとドナとミミルカは「ふうん、かなりがんばってるじゃない。でも、時折り無駄な雄叫びまであげているのはなぜかしら」「ここのところきな臭いことになってきたものだから、これは筋肉の見せどころ! ってはりきっているらしいっすよー」「緊急事態なのに喜んでるあたりが脳筋……ですわね」という辛口の批評をする。


『美しき奥方様と愉快な毒舌側仕えたち』の言葉を聞いたルデル先生は「やっぱり戦闘力といえば、筋肉よりも魔法なんですけどね。広範囲殲滅魔法が最高にイケてると思います」と、魔法馬鹿らしい意見を鼻息荒く述べた。


 わたしは杖を取り出すと、手早く周囲の雪をどかして乾いた土の広場を作る。

 視力の良さそうな騎士が、こちらを指さしてなにやら叫んでいるのが見えた。わたしの魔法を目撃したのだろう。屋敷の人達には当たり前の訓練場作りだが……土を求めた脳筋たちがこちらに押し寄せてこないといいのだけれど。


「屋敷の裏庭もかなり広いけれど、うっかり建物に被害を出したら困りますからね。今日からここで訓練しましょう」


「はい、奥方様!」


 ルデル先生は、魔法の腕を磨けるとあって元気いっぱいだ。

 

 今日のわたしは、長い銀の髪をふたつのおさげに編んである。ルデル先生にもピンクのおさげ姿になってもらった。この魔法部隊は背中にジェレミーとミリアムを背負って活動するから、おんぶの邪魔にならない髪型だ。

 寒くないように上着をモコモコに着込んだちびっ子たちは、「わーい」と土の上を駆け回っている。


「魔法遊撃隊、その名もおさげ隊、本日結成! ですねー」


「ドナ、勝手に部隊名を決めない」


 わたしは赤毛のおさげを振り回しながら、大喜びをしているドナに注意をした。


「やっぱりおさげ歴が長いわたしが隊長ですよね?」


「おさげから離れなさい。あと、おまえは魔法を使えないでしょう。ルデル先生、それでは身体強化魔法の調整をお願いね」


「はい、お任せください!」


 ルデル先生はわたしの右手を握ると「それでは奥様、魔力をこの波動に変化させて身体に馴染ませてください」と言って、お手本の身体強化魔法を送り込んだ。


「ふむふむ、これが筋肉魔法ね……」


 最初なので、とてもゆっくりと受け取り、右腕全体に行き渡らせる。


 先生の手が離れたので、右手を開いたり閉じたりする。


「違和感はないわね」


「力を抜いたり入れたりするタイミングに合わせて、魔力を細かく揺らすんです。慣れれば意識しないで使えますよ。『あの』人達ですら使いこなせる魔法ですから、大丈夫です」


 ルデル先生は、騎士団の方向にあごをしゃくった。

 物理攻撃派と魔法攻撃派との間には、深くて暗い溝があるのね。


 コツを覚えたわたしは、すぐに全身に身体強化の魔力波動を馴染ませることができたので、少し走ったり飛んだりと、様々な身体の動きを確かめた。

 いやはや、これはすごい。

 某アメリカンコミックの女性ヒーローにでもなったみたいに、力が満ち溢れてくるわ。


「ルデル先生、いけそうよ」


「それでは、子どもたちを背負ってみましょう」


 ミミルカが、布製の秘密道具を取り出した!

 ジャジャーン、おんぶひも〜!


 わたしが、子どもたちを背中に固定するための道具を「こんな感じのを作りなさい」と命じたら、メイドたちと協力して作ってくれたのよ。三歳児を安全に背負って、飛んでも走っても大丈夫なように固定する、という本来のおんぶひももビックリの荒っぽい使い方をするので、布と革のコンビネーションで試作を重ねて開発してくれたわ。さすがは手工芸が盛んなセイバート領の領民たちだけあって、見事な仕上がりよ。

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