第9話 4月 部屋割り kana
佳奈 kana
「これから、部屋割りをします」
女子寮のアプリを使って、各自の部屋を割り当てるのだという。
「学園システムによって抽選が行われ、ひとりずつ、ランダムで当選者が決まっていきます。当選者は、いまスクリーンに映っている画面に切り替わりますから、座席を予約する要領で、好きな部屋を選んでください」
要するに、早いもの勝ちってわけだ。
「ここからは、寮長にバトンタッチしますね」
そう言って、先生らしき女性は壇上から降り、代わりに腕章をつけた女性があがってきた。
背が高く、背筋をすっと伸ばした、凛とした佇まいの、きれいな女の人だった。
まぶしいくらいに、強いカリスマ性を放っていた。
「またまた寮長の七海です」
女性が声を発すると、みんながいっせいに笑う。
遅れてきたからわからないけれど、入寮式でこの七海先輩という人が、なにかおもしろい挨拶でもしたのかな。
「いきなり選べと言われても、判断材料がないでしょうし、情報格差があるとフェアじゃありませんから、私が部屋の人気についてご説明いたします」
そう前置きして、七海先輩は住居棟と呼ばれる生徒たちの個室が置かれるフロアについて説明してくれた。
1Fから6Fまであって、各階12部屋ずつ。
1Fは出入りする分には便利だけど、人の往来も激しいから時間によっては足音など騒々しくて、地上から部屋の中が見えちゃうのもあって人気はないですとのこと。
この女子寮は全館空調で、建物全体で冷暖房の温度設定をされているから、部屋からは空調のオンオフだけで、温度調節ができません。
それもあって、季節によっては、窓を開けっぱなしにしている子も多いです。
1Fの子は防犯上、窓を開けっぱなしにできないので、その点でちょっと不便かもしれません。
七海先輩がそう話すのを聞いて、私は1Fを選択肢から消した。
1Fは売店とか、パソコン室とかあって、便利は便利なんだけどねってフォローも、七海先輩は忘れなかった。
「初年度に1Fの子が、窓から男子を部屋に連れ込もうとして大問題になったことがありますから、みなさんはそういうことをしないように。ここは男子禁制です」
七海先輩が言うと、多目的室がどっとわいた。
微笑みながら、静かになるのを待って、七海先輩は2Fの話題に移る。
2Fは中央棟に食堂があるから、これまた人が集まってうるさい時間もあるし、中央棟に近い部屋なんかは、窓を開けていると食べ物の匂いが漂ってくることもあって、お腹が空きます。
「絶対やだ」
誰かがそんな声を発して、みんながいっせいに笑った。
3Fから5Fまではぜんぶいっしょで、中央棟にシャワールームと洗濯室があります。
後で説明がありますが、どっちも女子寮のアプリから空き状況を確認して、空いているところを自由に使っていいルールです。
同じ階にあると便利なので、これらのフロアが実際に住んでいる生徒たちから、いちばん不満の声が少ないです。
6Fはこの多目的室がある最上階になりますが、なんと言っても景色がいいです。
その代わり、上が屋根になるせいか、ほかの階よりも、夏暑くて冬寒いと評判です。
特に角部屋はその傾向が強いので、選ぶ人は覚悟の上で選んでください。
私は、最上階がいいなって考えていた。
生活に便利というよりも、やっぱり見晴らしがいいほうが気持ちがいいと思ったからだ。
「最後に、住居棟にはエレベーターがありません」
七海先輩が言うと、えーって声が響き渡った。
それを見て、腕章をつけた上級生たちが笑っている。
「中央棟のエレベーターは、時間によってはとにかく待たされるので、みんなあきらめて階段を使うようになっていきます。以上のことを踏まえて、このあと抽選をはじめたいと思います。なお、お部屋選びには15秒という制限時間があります。素早く選ばないと、ランダムで決められてしまいますから、順番が回ってくるまでに、どこを選ぶかしっかり心に決めておいてくださいね」
そう言って、私たちには抽選開始まで、3分間の猶予が与えられた。
みんな食い入るようにスマホの画面にかじりついている。
ざわざわと話し声がしはじめる。
近くにいる先輩に声をかけて、なにやら質問している子もいた。
「どこにするか決めた?」
あかりが訊ねてくる。
「いちばん上の階にする。見晴らしがいいの、好きだからね。角部屋は遠慮したいけど、そこしか空いてなかったらどうしようかなあ」
それだけが不安だった。
「え、暑いのも寒いのも嫌いなんだけど、私」
「それなら、あかりはもっと下の階にしたら? シャワールームがある人気のとこ」
私が言うと、あかりはなんか、もごもご言ってた。
あかりの声を聞きながら、前のほうの席に、ほかの新入生よりも、頭ひとつ分くらい、背のおっきな女の子が座っていることに気がついた。
隣に座っている子と、スマホを見せ合っておしゃべりしている。
金髪ってほど明るくはないかなって程度の明るさに染められた、サラサラの長い髪が目を引いた。
そこからのぞく横顔が、絵画のようにきれいだった。
「あの子、すごいおっきいね」
私が指をさしながら言うと、あかりは眉間にしわを寄せ、むっとした顔をして、ぷいっと顔を背けてみせた。
なんか気に障ったのだろうか。
「抽選をはじめます」
七海先輩の声がして、抽選がはじまった。
会場がいっせいにわく。
スマホの画面に目を落とすと、住居棟の図にどんどん名前が埋まってゆく。
当選者たちが、続々と部屋を選んでいるみたいだ。
わくわくが止まらなくなってくる。
顔をあげ、スクリーンを見て、当選者の画面がどうなるのかを改めて確認する。
スマホに目を落とすと、まさにその画面になっていた。
私は慌てて狙っていた605号室をタップする。
確認メッセージがでたので、大慌てで「はい」を選んだ。
6Fのふたつの角部屋のうちのひとつ、その隣にあたる605号室に、学籍番号とともに「佳奈」と名前が刻まれた。
満足していると、あかりがこっちを向いた気配がした。
横を見ると、目が合ったので、私はやってやったぜと笑いかけた。
あかりがスマホにかじりついたので、私もスマホに目を落とす。
私の両隣はまだ空室だった。
次々に名前が埋まっていくが、6Fはあんまり人気がない。
七海先輩の情報どおり、3Fから5Fまでのフロアがどんどん埋まってく。
いちばん最初に埋まったのは3Fだった。
ひとつ下りれば食堂だし、シャワールームも洗濯室もあるし、エレベーターが使えなくて階段を利用したとしても、比較的楽だもんね。
残念だったねってあかりの顔を見ると、あかりは真剣な表情でスマホを握りしめていた。
私が思わず、ふふっと笑うと、あかりがスマホの画面をタップしはじめる。
順番が回ってきたみたいだ。
どこを選んだのかなって、自分のスマホに目を落とすと、「佳奈」の隣の604号室に「志乃」って名前がいつの間にか入っていた。
どんな子だろうって思っていると、画面が更新され、「佳奈」の隣の606号室に「あかり」が出現した。
「え、角部屋だよ?」
暑いのも寒いのも嫌いって言ってたくせに、七海先輩の話、聞いてなかったのかって思って、あかりの顔を覗き込む。
「いいの」
あかりはそれだけ言って、ふうっと息を吐いた。
「なんで?」
私が理由を訊ねると、
「好きだから」
あかりは、ぼそっとそうつぶやいて笑った。
「景色?」
と訊ねると、あかりは「まあね」って言って、また澄まし顔に戻った。
新入生72人にひとりずつ部屋を選ばせるなんて、どんだけ時間かかるんだって思ったけれど、あっという間に部屋割りは終わった。
みんな制限時間があるから必死だったみたいだ。
最後に七海先輩が締めの挨拶をする。
「気づいた人もいるかと思いますが、学園アプリ上でも、女子寮のアプリ上でも、みんな下の名前で表記されていますね。この学園では先生も生徒も下の名前で呼び合います。これはこの島の古くからの文化なんです」
七海先輩の話によると、この島には同じ名字の人がたくさんいて、名字で呼びかけるといろんな人が振り向いてしまうから、昔から名前で呼び合う文化があるのだという。
この学園は、島の人たちと共存していくため、島の文化にならって運営していますというお話だった。
私はそこで、学園誘致反対と書かれた立て看板のことを思い出した。
入学前、ネットで学園のことを調べているとき、地元住民らしい人の、学園の生徒たちの素行に対する不満の書き込みを見たことも、同時に思い出した。
私たちは、必ずしも島の人たちから歓迎されてはいないという事実を、私はそのとき気がつかされたのだった。




