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絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第四章 迷い子たち
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第70話 12月 山中にふたり kana

  佳奈 kana


 絆の時間が終わり、部屋に帰ろうとしたとき、ふと、あかりの様子が気になって、私は彼女の部屋をノックした。


 反応はない。


「寝てるのかな」


 自分の部屋に帰ると、胸騒ぎがして、私は女子寮のアプリを開いた。


 あかりの部屋は、不在表示になっていた。

 シャワールームや、洗濯乾燥機を予約している形跡もない。

 売店も食堂も閉まっているし、おかしいなと思って、私はベランダに出る。


 あかりの部屋を覗くと、電気がついていた。

 門限なんてとっくに過ぎているし、トイレにでも行っているのかな。


 そのまま部屋へ戻ろうとしたとき、最後に見たあかりが、いつもと違う表情をしていたことを思い出して、胸がざわついた。


 私は柵を乗り越えて、あかりの部屋のベランダに入り込む。

 窓の鍵はいつもどおり、かかっていない。


 勝手に入ったのを見られたとしても、あかりに会えるならそれでいいやと思って、私は数か月ぶりに、彼女の部屋に侵入した。


 一見して、なにも変わっていないけれど、その違和感にはすぐに気がついた。


 机の上に、紙が三枚、並べて置いてある。

 誰かに宛てた手紙なのだと直感した。


 痩せてしまっているし、健康状態がよくないのは見た目にもはっきりわかるから、そんな状態で書く手紙が、健全な内容ではないのは、なんとなく予想できた。


 私はおそるおそる、その内容を確認する。


 一枚目は、私と遥香に宛てた手紙のようだった。

 自分のところだけ、読んでみる。


 私との思い出が綴られていた。


 そのとき、あかりがどんな気持ちだったのかが書かれていて、私にとっては、まるで答え合わせのようにも感じられた。


「私だって、あかりのこと、好きなんだよ」


 あかりは最後、私に謝ってた。


 私は自分の気持ちが伝わっていなかったことが、悲しくて、悔しかった。


『お母さんへ』


 そんな書き出しではじまる二枚目は、いなくなったあかりのお母さんへ宛てた手紙で、まるで遺書のような内容だった。


 最後の一枚は、犯行声明文だった。


 ◇


 遥香を連れ出して、私は山へと急ぐ。


「門限過ぎてるし、入山申請だってされてないし、ほんとに山へ入れるの?」


 女子寮を抜け出したところで、遥香が訊ねてきた。


「入り込めるルートなんか、いくらでもあるよ」


 あかりとふたりで探索したんだ。

 あいつだって、それを知っている。


「そのトートバッグって、なにが入ってるの?」


 話しかけてくる遥香を無視して、私は目の前の状況に集中する。


「ここから入ったみたいだね」


 道を外れた山林の中に、最近、人が踏み固めたとわかる場所があった。


「よくわかるね、佳奈ちゃん」

「私は、山で育ったからね」


 この様子だと、あかりはもう山の中にいる。

 間に合わないかもしれない。


「警備員さんのいるゲートの近くを通り抜けたら、走るよ、遥香」


 遥香は目立たないように、私と同じ高さまで腰をかがめて、慎重に歩きながら頷いてみせる。


 首尾よく山道に出た私たちは、発電所へ向けて走りだした。


 ◇


「こっち」


 正面から堂々と入ろうとする遥香の首根っこをつかんで、発電所を取り囲むフェンスに沿って歩く。


「そこじゃない」


 破れた金網の穴に入ろうとする遥香の首根っこをつかんで、発電所の裏に回り込む。


 燃料タンクが立ち並ぶ姿が、フェンス越しにもよくわかる。


「まだ、なにも起きてないね」


 遥香が周囲を見回しながら言う。


「私たちより先に、山へ入っているのは間違いないと思うんだけど」


 金網越しに発電所の中を眺めてみても、人の姿はない。


 犯行声明文のとおりなら、燃料タンクに火を放つはず。

 あいつは、この山を、あの学園を、破壊するつもりだ。


 だけど、そんなこと、あいつにできるのか疑問だった。


 あんなに正義感にあふれて、正しくないものは認めないってくらい、すべてに反抗していたあいつに。

 命が惜しいなんて思っていないとしても、いざやるとなったら、躊躇したりするんじゃないだろうか。


 あいつはそんなに、強い人間じゃないって、私は知っているから。


 いつも不安で、お母さんみたいにいなくなっちゃうんじゃないかって怯えながら、私のそばを離れないでって、私をずっと見ていてって、甘えたい気持ちを、強がりでごまかしているような、そういうやつなんだ。


 あいつと付き合っていくには、その気持ちを包みこんでやる、母性が必要なんだから。


「どこか寄り道でもしているのかな」


 この山で、あかりが行きそうなところって。


「そっちじゃない」


 裏口の扉を開けて、発電所に入ろうとする遥香の首根っこをつかんで、私は崖の方へと向かう。


『この先、危険』


 ぼろぼろの立て看板が、私はここにいるって、教えてくれているみたいだった。

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