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絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第四章 迷い子たち
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第58話 10月 絆の時間(佳奈) kana

  佳奈 kana


「友だちがエロ本を読んでいるって知ったら、みよちゃん先輩ならどうしますか?」


 絆の時間。


 いつものようにちゃぶ台を囲んで、お茶をすすってから、私は思い切って訊ねてみた。


「ん。なんもしない」


 半笑いの顔で、みよちゃん先輩は応じる。


 いつもなら、私のすることをいったん咎めようとしてくるのに、こんなあっさりなのはおかしい。


「みよちゃん先輩は、えっちなんですか?」


 突然の問いかけに、先輩は、んふうって息を吐きながら応じる。


「どう答えたらいいんだろ。えっと、美代子はそんなにアブノーマルじゃない」


 いつもそれ、言ってないか、美代子。

 アブノーマルなことを、知っている側、だよね、その意見は。


「思春期なんだし、えっちなことに興味を持つのは正常なことだと思うから、見なかったことにしてあげたらいいんじゃないかなあ」


 それが、そうもいかないのだ。


「シャワーを浴びてる隙を狙って部屋に行くと、いつもベッドとか机に置いてあるんですよ」

「それ、不法侵入をやめたらいいだけなんだあ」

「気になるじゃないですか。あったら私も読んじゃいますし」

「ああ、その気持ちは、わかるかも。美代子も見つけたらどれどれ、どんなの読んでるんだいって思って、つい開いちゃうと思う」


 うんうんって、みよちゃん先輩は頷いている。

 わかってもらえてうれしいけれど、実は不満もあるのだ。


「シャワータイムだけじゃ、読み終わらないから、最後まで読めたことがないんですよね。どうやら借り物みたいで、私が読み終わらないうちに返却されてしまうんです。続きが気になって夜も眠れません」


 本を貸しているのは、遥香だ。


「感想を言い合っているのを聞いたから、誰から借りたのかはわかってるんですけど」

「私も読みたいから、貸してほしいんだあって、その子に直接お願いすることってできない?」


 思わぬ提案に、はてって顔をして、私は考えてみせる。


「え、それだと、私がふたりの会話を体育倉庫の中で盗み聞きしているって、バレてしまいますよね?」

「それって、盗聴っていうんだあ」

「そんな人聞き悪いですよう。たまたま、お昼休みに体育倉庫にいたら、壁の裏側で話す声が聞こえてきちゃうだけなんで」

「たまたまいる場所ではないと思うんだあ」

「マットとか敷くと、寝そべったりできて、快適ですよ」

「おすすめしてくれてるところ悪いんだけど、私って共犯者ではないんだあ」


 ちょっと埃っぽい匂いがするのが、難点なんだよなあ。


「体育館の2Fにあがって、窓から顔を出して見下ろすと、ふたりの姿を見ることもできるんですよ」

「やだあ。バレないように気をつけるんだよう」

「あいつら、上をまったく気にしていないんで、だいじょぶです」

「そこで、あいつらって言い方されると、途端にいけない香りがしてくるんだあ」


 鋭い指摘に、ふふふって笑っていると、みよちゃん先輩も、うふって笑った。

 ひみつを共有すると、なんだか、いい気分。


「困ったねえ。佳奈ちゃんの悩みって、私には早すぎるっていうか、ちょっと難しいみたい」

「そんなことないです。いつもいいアドバイスをいただけています」


 私が言うと、みよちゃん先輩がうふふって笑った。

 美代子がうれしそうだと、私までうれしくなっちゃう。


「ちなみに、どんな本が多いのかなあ?」

「女の子同士の恋愛を題材にした本ばっかりです」


 わあって美代子が声をあげた。


 遥香はどうやら、恋愛の教科書として、あかりを教育するために、本を貸しているみたいなんだ。

 それを中途半端におすそ分けしてもらっちゃって、もやもやしっぱなしの私の身にもなってほしい。

 それなのに、あのふたりときたら、最近どんどん距離が近づいていて、キスだけじゃ済まないって、雰囲気なんだ。


「みよちゃん先輩も読みますか? そういうやつ」


 私の質問に答えずに、美代子がむふむふしてる。

 私には、言いたくないのかな。

 一応、女同士、ではあるし、言うの気まずいのかな。

 私のことをそういう目で見てるって、思われたくないとか。


 黙って答えを待っていると、ついに美代子は白状した。


「七海先輩に憧れてたとき、なんか、そういう気持ちを発散したくって、よく読んでたなあ」


 私は、一年生のみよちゃんに思いを馳せてみる。


 なんか、わかる気がするっていうか、私も美代子といっしょかもって、思ってしまった。

 ということは、私って美代子のこと、やっぱり、そうなのかな。


「キスしてもらえて、その気持ちは成仏できたけどね」


 漫画の中のカップルみたいには、なれなかったけれど、いい思い出をいただけて、美代子は満足できたってことなのかな。


「その先は、したくならなかったんですか?」


 美代子が切ない表情になった。


 私はそんなつもりじゃなかったと後悔して、慌てて美代子のそばに行く。

 隣に座って、切ない顔をしている頭をなでてあげる。


「失恋って、つらいんだあ。思い出すと泣けてきちゃう」


 頭をなでてやっていると、瞳をうるませながら、みよちゃん先輩がそう漏らした。

 こんなこと思ったら、申し訳ないのだけれど、美しい感情だなって思ってしまった。

 みよちゃん先輩は、七海先輩と自分は釣り合わないって思って、自ら身を引いたって、以前教えてくれたっけ。


 つらかったんだなあ、みよちゃん。


 だけど、その感情を、失恋と呼ぶってことは、やっぱりそういうことなんだ。


「佳奈ちゃんと出会えたから、立ち直れた気がする」

「え、それって」


 それ以上、言うのがこわくなって、私は言葉に詰まってしまった。

 違うよって、言われたくなかった。


 言葉が続かないまま、見つめ合っていると、みよちゃん先輩の顔がとろけはじめる。

 そんなふうに言われて、そんな目で見つめられると、なんだか意識しちゃう。


「キスしよ」


 小さな声で、先輩が言った。


 聞き間違いじゃないよなって思っていると、先輩が目を閉じてみせる。

 私からしてほしいってことなんだ。


 わくわくどきどきが、止まらないまま、心臓の動きに急かされるがごとく、私の唇は、みよちゃん先輩の唇に吸い寄せられていく。

 んふうって、みよちゃん先輩のあったかい息がかかって、興奮した先輩に、思いっきり抱き寄せられる。

 みよちゃん先輩のからだは、ふかふかしてて、あったかくて、とろけるような、いい匂いがするんだ。


 私は欲望を抑えていられなくなって、漫画の中の女の子たちみたいに、みよちゃん先輩の口の中に、自分の舌をすべらせた。


「あんっ」


 美代子が甲高い声をだして、びくっとのけぞったので、私の舌は美代子から追い出されて、そのまま彼女を押し倒すような形で、覆い被さってしまった。

 とっさに、先輩の頭を抱え込む。


「ぐえ」


 先輩の頭と床に手を挟まれる格好になって、私はきたない悲鳴をあげた。

 そのままふたりで、床に仰向けに横たわる。


「前もこんなこと、ありましたね」

「佳奈ちゃん、急に激しいからびっくりしちゃったんだあ」


 照れくさいので、笑ってごまかす。

 まだ、心臓のどきどきが、収まらない。

 美代子もいっしょかなって顔を覗き込むと、真っ赤な顔のみよちゃんがそこにいた。


「チャイムが鳴るまで、今日はずっとこうしていたいです」


 私がお願いすると、


「美代子もいっしょなんだあ」


 と言って、みよちゃん先輩が、今日いちばんのかわいい顔で笑ってくれた。

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