表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第四章 迷い子たち
55/66

第55話 9月 あかりの部屋 kana

  佳奈 kana


 夏休みが明けて、新学期がはじまると、また以前のような生活が戻ってきた。


 あかりはいつも、遥香とふたりで行動している。


 喧嘩しているわけじゃないから、ふたりに混ざりたいなって気持ちもあるけれど、あのふたりを眺めているのも楽しくって、私はふたりの様子を遠くから観察することを続けていた。


 お昼休み、体育倉庫の裏に座っておしゃべりしているから、体育倉庫の中にいれば、話し声が聞こえることもわかった。

 会話を盗み聞きしていると、ふたりはすごく親密で、お互いを「恋人同士」と認識していることもわかった。


 キスとかしてるし、遥香が女の子を好きだって知ってたから、驚きはなく、そうだろうなって納得する気持ちだった。


 じゃあ、あいつって、私にはどういうつもりで、キス、したんだろう。


 なにも言わずに、キスしてきたり、抱きついてきたりするから、私はあかりのことが、よくわからなくなっていた。


 放課後、あかりとふたり、体育のジャージ姿のまま、山岳調査に向かう。


 私たちは、学園から見て、ちょうど山の裏側のほうまで足を延ばしはじめていた。


「そこ、斜面急だから気をつけてね」


 山の裏側は自然が険しくて、あかりには危なっかしい場所が多い。

 私は先陣を切って、安全を確認しながら進む。


「わ」


 転びそうになったあかりが、私の背中に抱きついてきた。

 危うく私まで、転倒しそうになる。


「気をつけてって言ったでしょ」

「わざとじゃない」

「わざとって、なに?」


 ははって笑いながら、あかりが地図に危険な場所としてメモしている。


 山の中で見るあかりは、学校での澄まし顔とは違って、明るくよく笑う、私の好きな、あかりの姿をしていた。


 ◇


 女子寮に戻ると、また、あかりとは別行動になる。


 事前に約束しているのか、あかりは遥香とふたりで晩御飯を食べるのだ。

 私は勇気を出して、ふたりの晩御飯に混ざることにした。


「ここ、いい?」


 偶然を装って、食堂に姿を現し、向かい合って座るふたりに声をかける。


「そこ、座りなよ」


 あかりに促されて、遥香の横に座る。

 にやっと、あかりが笑った。


 私がふたりの動向を監視して現れたのが、バレてるのかな。

 まあ、いいや。


「これってなんの魚なんだ」


 私は、隣でもぐもぐやってる遥香に訊ねてみる。

 遥香は、私とあかりの顔を交互に見ながら、咀嚼している。

 答えがわからなかったのか、あかりも遥香の顔を見る。


 ふたりで、遥香の顔を見つめていると、胸をとんとんと叩きながら、遥香は一生懸命、飲み込もうとした。

 おもしろいから、そのまま見つめていると、遥香は恥ずかしそうな顔をして、


「豆あじ」


 と、小さな声でつぶやいた。

 なぜだか、私とあかりは同時にどっと笑った。


「遥香、すごい大盛りにしてもらってるんだね」


 山盛りのごはんと、うず高く積まれた豆あじの天ぷらを見ながら私が言うと、んふって笑いながら、


「佳奈ちゃん、そういうのいらないから」


 と、言いながら、膝をぽんって叩かれた。

 正面を向き直ると、あかりも笑っていた。


 久しぶりの、遥香とのスキンシップ、うれしい。


「なんか、怪しい視線」

「え? 私?」


 遥香が小さな声で言うから、私は思わず、余計なことを訊いてしまった。


「佳奈ちゃんの視線なんて、常に怪しいでしょ」


 笑いながら、遥香が言う。


「ほぼ、変態のそれなんだから」

「おいしいなあ、豆あじ」


 私がすぐさま、ごまかしてみせると、ふたりが笑った。


「かわいいんだから、この人は、まったく」


 遥香が呆れたように言う。

 褒められてうれしい気持ちで、遥香の顔を見つめる。


「産まれ方、間違ってたら、警察のお世話になってそうだけどね」


 遥香の鋭い指摘を受けて、私は、がははっと、きたなく笑う。


「ふふ。笑ってる」


 そう言いながら笑っていたあかりが、最後に「こいつやば」って言った気がした。


 遥香が、私の顔をまじまじと見つめてくる。


「髪、伸びてきて、女の子らしい雰囲気になってきたね」

「え、そう?」


 遥香からの予想外の言葉に、私は舞い上がった。


「春先のおかっぱみたいな佳奈ちゃんも、くそガキみたいで、似合ってはいたけれども」

「あかりくらいの長さにしたいんだよねえ」


 あかりと目が合ったので、「ね?」って頷く。

 あかりも、食べながら頷いてくれた。


「ていうか、いま、くそガキって言わなかった?」

「え、それって、おそろいにしたいってこと?」


 私の問いなど、なかったことにして、遥香が訊ねてくる。


「おそろいっていうか」


 なんでだっけ。


 そうだ。

 はじめて会った日に、そう思ったんだ。


「あかりがかわいかったから、私も真似してみたかったんだ」

「んん?」


 なんだそれって顔で、遥香が私とあかりの顔を交互に見ていた。


「ほら、身長も同じくらいだし」


 そりゃ、遥香みたいなスラッとした美人になれたら理想だけど、そんなの不可能だって考えるまでもなくわかる。


「私でも、あかりみたいになら、なれるかなって」

「んん?」


 遥香は納得いかない様子で、私とあかりの顔を交互に見続けていたけれど、久しぶりに三人でおしゃべりできて、私は楽しくてしょうがなかった。


 ◇


 部屋に戻った私は、ベッドの上でぼーっとする。


 眠気に襲われていると、廊下のほうで、誰かがドアを開け閉めする物音がした。

 すぐさま、スマホで女子寮のアプリを確認する。

 あかりが不在表示になった。


 私はシャワールームの予約状況を確認する。

 あかりが4Fのシャワールームを予約している。

 どうやら、シャワーを浴びに行ってくれたみたいだ。


 スマホの画面をリロードして、シャワールームが使用中に変わるのを確認すると、私は窓を開けて、ベランダに出ていく。

 柵から身を乗り出して、あかりの部屋を覗くと、いつもどおり、半開きになった窓から、カーテンが揺れているのが見えた。


 私はいつもそうするように、柵を乗り越えて反対側に出る。


 みよちゃん先輩からは、危ないからやめてほしいとお願いされたけれど、こんなの、ぜんぜん、危ないうちには入らない。

 小さい頃、実家の屋根の上から、雨どいを伝って、家のてっぺんまで上ったのと比べたら、楽勝もいいところだ。


 私は軽々とベランダを移動し、あかりの部屋に侵入した。


 あかりは部屋を出るときも、電気を消さない。

 あかりのおばあちゃんは、電気代もったいないって注意しない人なのかな。


「ふう」


 あかりのベッドを我が物顔で独占する。


 枕に顔を埋めて、すーっと息を吸うと、あかりの匂いがする。

 布団を被って、その匂いに全身を包み込む。


 やっぱり、美代子とは違う。

 なんだろうな。


 最初は間違いなく、どきどきしたんだけど、連日、繰り返していたら、この刺激にも、慣れてきてしまった。


 ベッドから顔をだして、部屋を眺めていると、脱ぎっぱなしのジャージが目に入った。

 このあと、脱いだ下着やらといっしょに、お洗濯しようとしているのかな。


 私は、ベッドを抜け出して、ジャージのところにしゃがみこむ。

 拾い上げると、ふわっとあかりの匂いがした。


 上着に顔を近づけると、ほんのり汗の匂い。

 なんか、興奮する。


 私は山を下りてきたままの、自分のジャージを脱いで、あかりのジャージを着てみることにした。


「うわ」


 思わず、声をあげてしまうほど、刺激的な体験だった。

 あかりに、抱きしめられているみたい。


「なんか、ちょっと、だめだ」


 みよちゃん先輩に教わった、あのやり方で、この気持ちを鎮めないと。

 また、からだおかしくなっちゃう。


 最近、ようやく落ち着いてきたのに、また、はじめての、あの感覚を、からだが思い出してきた。


 いたたまれなくなった私は、あかりのジャージをもらっていくことにした。

 私のジャージと交換になるけれど、サイズとかいっしょだし、わかりゃしないよね。


 私は、あかりが戻ってくる前に、部屋を元通りにして、窓から帰ることにした。


 ◇


 部屋に戻った私は、すぐにズボンを脱いで、パンツを下ろした。


 衣装ケースから、大事にしまっている、あかりのパンツを取りだす。


 あかりのパンツをはいて、ジャージのズボンをもう一度はき直すと、あかりになったような気持ちとともに、あかりに抱きしめられて、あかりに触られているような、頭もからだも、あかりでいっぱいになる感覚が襲ってきた。


 私は電気を消して、ベッドに潜り込む。


「あの動画」


 飽きるほど見たから、最近開かなくなってきた動画だけれども、この状態で見ると、たまらなかった。


 足を開いて、ズボンの中に手を入れる。


「あかり」

「あかり」

「あかり」


 私はなんども、あかりの名前を呼びながら、あかりに迫られる妄想をする。


 からだがびくびくと波打って、頭がぼうっとしてきても、私はそれをやめられない。


 ジャージの上着を噛んで、打ち寄せる感覚を押し返そうとしていると、自分があかりのからだに噛みついているようなイメージが膨らんで、また、背徳感のようなものが襲ってきた。


 いつまで、そうしていたか、わからないほどだった。

 あまりの興奮に、私はどうかしていた。


 廊下から、ドアを開け閉めする音が響いて、私はそこで、正気に戻った。


 私は、また、あかりに支配されていたんだ。


 それを示すように、お腹のあたりが、脈打つように、まだ、ひとりでに動き続けている。


 私もシャワーを浴びて、お洗濯しなきゃ。


「洗濯物、増えちゃった」


 あかりに支配されて、正気に戻ったあとには、なんだかちょっぴり、後悔が押し寄せてくるのも、恒例なのだった。


 また私、とんでもないこと、しちゃった。


 私にとって、あかりって、いったい、なんなんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ