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絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第四章 迷い子たち
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第54話 9月 絆の時間(佳奈) kana

  佳奈 kana


「みよちゃん先輩のベッド、お借りしてもいいですか?」


 絆の時間。


 みよちゃん先輩の部屋を訪れた私は、いつもの座布団に座ることなく、そう訊ねた。


「まず、落ち着こうか」


 お茶の準備をしながら、みよちゃん先輩が「待て」の合図を送ってくる。

 私は仕方なく、座布団に正座して、お茶をいただいておく。


「落ち着きました」

「佳奈ちゃんが落ち着くことって、あるんだあ」


 笑ってるけど、どういう意味なんだ、美代子。


「じゃあ、早速、失礼させていただいて」


 私が立ちあがると、


「問答無用なんだあ」


 と、みよちゃん先輩は笑う。


「また寝不足なの?」


 ベッドに向かう私に、先輩が心配そうに声をかけてくる。


「ぜんぜん、寝不足とかではないです。先輩のおかげで、すっきり眠れています」


 仰向けに横たわって、先輩の顔を見上げると、ちょっと恥ずかしそうにしていた。


「布団、かけてもらってもいいですか?」


 自分でもできるけど、甘えたかったからお願いしてみる。


「これでいいのかなあ」


 ふわっと、掛け布団が覆い被さってくる。

 布団から、美代子の匂いがする。


「うわあ」


 あまりの心地よさに、声がでてしまう。

 美代子の匂いに包まれていると、全身が溶けてしまいそう。


「みよちゃん先輩」


 布団から顔を出して、私は先輩を呼ぶ。


「いっしょに入っていただくことってできますか?」


 みよちゃん先輩は、えーって恥ずかしそうに声をだしたけれど、


「なんだかわかんないけど、お邪魔するんだあ」


 すぐそうやって、声を弾ませて、布団に入ってきてくれた。


「あったかいですね、みよちゃん先輩」


 ひとり用のベッドに、ふたりで入ると、お互いの体温で、暑いくらいだった。


「秋らしく、涼しくもなってきたし、今日はベッドの中でお話したいってことなのかなあ?」


 不思議そうな顔で、みよちゃん先輩が訊ねてくる。


 最近の女子寮は、外が涼しくなってきたのに、冷房の温度は夏仕様のままで、なんだか肌寒いくらいなんだ。


「抱いていただくことってできますか?」

「えぇ」


 私が訊ねると、みよちゃん先輩が悲鳴のような声をあげた。


「佳奈ちゃんのお願いとはいえ、それはちょっと」


 私は切なくなってしまった。

 それを察した先輩が、慌てた様子で続ける。


「嫌とかじゃなくて、そう言ってもらえて、うれしいんだけれども、心の準備がまだ」

「いつもはしてくれるじゃないですか。はじめての絆の時間のときだって」

「あ、抱くってそういう」

「なんだと思ったんですか」


 うわあって悲鳴をあげながら、みよちゃん先輩が両手で顔を覆った。

 そのまま、眠気を覚ますように、両手で顔をぱんぱん叩いている。


「佳奈ちゃんのスピードを、うっかり追い越しちゃったんだあ」

「スピード違反だよ、みよちゃん」


 あははって、みよちゃん先輩は楽しそうに笑う。

 私も、いっしょになって笑った。


「もしかして、ホームシックとか、さみしい気持ちになっちゃったの?」


 みよちゃん先輩がやさしい顔をして、語りかけてくる。


「もうこの島に来て、半年くらいは経とうとしているもんね」


 思えば、すごく濃密な時間だったって気がしてくる。


「お姉ちゃんがいるから、大丈夫よ」


 そう言って、みよちゃん先輩は、私を抱きしめてくれた。


 たぶん、みよちゃん先輩は、なにか勘違いをしているのだけれど、彼女に抱きしめられると、胸がどきどきするのに、私は安心感に包まれるのだ。


「心が満たされる感じがします」


 先輩の背中に腕を回して抱きしめると、


「美代子もいっしょだよ」


 と、みよちゃん先輩が教えてくれた。


「先輩にお願いがあるんですけど」

「お願い?」


 私を解放しながら、ベッドの中で、みよちゃん先輩が首を傾げる。

 ベッドに首が、めり込みそうだよ、美代子。


「キスしてもらうことって、できますか?」


 ええって言いながら、みよちゃん先輩が目を逸らした。

 どんどん、顔が赤くなってくる。

 美代子って、すぐ顔に出るんだから。


「いいってことですね」

「うぅん」


 美代子は、なんとも言えない、息を吐いた。

 たぶん、照れくさいんだろうなって思って、私は提案した。


「私からします。先輩、目、閉じてください。見られながらするの、恥ずかしいので」


 みよちゃん先輩は、私の目と、唇と、視線を二往復させてから、静かに目を閉じてみせた。


「なんか、自分からするのはじめてで、緊張してきました」

「美代子も緊張してるから、だいじょぶ」

「あ、歯に当たっちゃったらあれなので、口閉じててもらえると」


 うんって、黙って頷くその頭が、こつんと私の頭にぶつかってくる。

 ふふってふたりで笑いあうと、みよちゃん先輩が顔をあげてくれた。


 目を閉じて、口をぎゅって結んでいる先輩の顔に、自分の顔を近づける。


 みよちゃん、かわいい。


 興奮して、息が荒くなってしまって恥ずかしいけれど、このどきどきは、抑えられないんだ。


 ちゅって唇を重ねると、もうそれだけで、いてもたってもいられなくなって、私はベッドの上で、ばたばたと暴れまわった。


「いい雰囲気が台無しなんだあ」


 みよちゃん先輩が笑ってる。


 前にしてもらったときより、もっとどきどきして、たまらなかった。


 私、やっぱり、美代子のこと好きだ。

 美代子といっしょだと、わくわくどきどきしてたまらない。


 みよちゃん先輩がベッドから下りたので、私も起き上がって、ちゃぶ台を囲んで座る姿勢に戻る。

 ふたりでお茶をいただいて、心を落ち着ける。


「やっぱり、あかりと先輩は違います」


 あかりとキスしたり、抱き合ったりしたときも、どきどきはしたけれど、美代子に感じるどきどきとは、性質が違う気がする。

 なんか、わくわくが足りないって感じなんだよね。


 もしかして、特別なのは、美代子のほう、だったりするのかな。


「やだあ」


 黙って見つめていたら、みよちゃん先輩が両手で顔を隠してしまった。


 かわいいなあ、美代子って。


「間違ってたらごめんなんだけど、佳奈ちゃんは、違いを確かめたかったってことなのかなあ」


 私は、深々と頷いてみせる。


「私、あいつがシャワールームに行っている間に、あいつのベッドに忍び込んでみたんです」

「え、それって、不法侵入」

「あ、ベランダの窓から入り込んだだけなんで、ドアを壊したりとかはしてないです」

「手口は訊いてないんだあ」


 そんなこと言われると、犯行を見られちゃったみたいで恥ずかしい。

 思わず、むふっと笑うと、みよちゃん先輩も、んふっとふきだした。


 気まずいので、話題を少しずらしてみる。


「涼しくなってきて、冷房が寒いくらいなんで、あいつ、いつもちょっとだけ窓を開けているんですよ」

「あ、わかるう。私もそうしてる。空気も入れ換えたいし」


 振り返って、少しだけ開いた窓を見ながら、みよちゃん先輩が言う。


「窓の鍵をしめる習慣が、そもそもないみたいなんですけどね」

「私もそうかも」

「かくいう私も、人のこと言えないです」


 はははって、ふたりで笑いあう。

 たぶん、みんなそうでしょ。


「この建物って屋上もないし、まさか最上階にいて、窓から入られるなんて思わないもんねえ」

「そんなやつ、いませんよね」

「ここにいると思うんだあ」


 一本取られたなあって私が笑うと、先輩も、うふって声をだして笑った。


「ベランダの柵を乗り越えるだけなんで、案外ちょろいですよ」

「危ないよう。佳奈ちゃんがそんなことしてるの見たら、心配で卒倒しちゃいそう」

「おばあちゃんにも、『お願いだから、屋根に登ったりするのはやめてくれ』って、よく泣きつかれていました」

「おばあちゃん、寿命縮んだでしょうねえ」

「高いところ、好きなんで」

「なんかことわざ、煙となにが高いところに上るのが好きなんだったっけ?」

「え、馬鹿、じゃないですか?」


 私たちは「おお」って感じで顔を見合わせると、ぎゃははって同時に笑った。


 笑いごと、なのかな、私たち。


「佳奈ちゃんとのコミュニケーションって、非日常体験、みたいなところあるから、すっかり慣れてきちゃって、なに言われても、あんまり驚かなくなっている自分がこわいんだあ」

「だいぶ、ほぐれてきましたね」

「なにが?」


 笑ってごまかしていると、みよちゃん先輩がまじめな顔をする。


「危ないから、もうしちゃだめだよ、佳奈ちゃん」


 はてって顔で、私はとぼけてみせる。

 先輩が呆れた顔をしてる。


「人のベッドでなにをしていたのかなあ」


 眉をハの字にしながら、先輩が訊ねてくる。


「匂い嗅いだりとか」

「うん」

「なんかその、変な気分になってみたりとか」

「それって、ただの変態なんだあ」

「ちゃんと、元通りにはしてますんで」

「それって、証拠隠滅っていうんだあ」


 ぐうの音もでない正論に、私は笑うしかなかった。

 みよちゃん先輩も、楽しそうにげらげらと笑う。


 笑ってる場合、なのかな、美代子。


「佳奈ちゃんは、あかりちゃんって子のことが、好きってことなの?」

「まあ、好きは、好きです」


 それについては、認めるしかない。


 あいつのこと、気にはなるし、いっしょにいたいって思うし、わかりあえるって思ってもいるし、好きだからそう思うんだって、そのくらいはわかってる。


「間違ってたらごめんなんだけど、それって、恋愛的な意味で?」


 私は答えに窮した。


「わからないんです」


 待ってくれているから、ひとまずそう口にした。


 みよちゃん先輩は、うーんとうなりながら、首を傾げて、ほっぺたに指を当てている。


「それが知りたいから、もっと近づこうとしてしまうのかもしれません」


 あいつのパンツをはいてからというもの、わけわかんなくなっちゃって、どうしても、あいつのことが、頭から離れないのだ。


「正攻法で近づくことってできない?」


 みよちゃん先輩が、本質的な疑問を呈してくる。


「たとえばどんな?」


 わかってるくせに、私は質問で返してしまう。


「もっと仲良くなりたいんだあって言ってみるとか、どういう好きかはさておき、好きなんだあって伝えてみるとか」

「そんなのできないですよう」


 私は即答した。

 あいつにそんなこと、できない。

 照れくさいのとも、また違う。


 うまく言葉にできないけれど、なんかそういうの、できないって気がする。


 それがどうしてなのか、このときの私には、わからなかった。

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