第51話 8月 夏祭り1 akari
あかり akari
「まだ着るのは早いんじゃないの?」
佳奈の部屋で、私は無理を言って、浴衣を着せてもらうことにした。
意外なことに、佳奈が着付けができると豪語するから、生徒会の仕事に出発してしまう前に、やってもらうことにしたのだ。
「ジャージ、脱いで」
冷房が寒いくらいだから、私は朝から体育のジャージを着ていた。
上着を脱いで、Tシャツ姿になる。
「シャツも脱いで」
「え、脱ぐの?」
この上から、羽織るんだとばかり思っていた。
「そんなの着てたら、暑くて死ぬよ」
「ん。わかった」
まさか、下着も脱げって言わないよなって思いながら、Tシャツを脱ぐと、
「下も脱いで」
と、ズボンも脱ぐよう指示される。
はじめて会った日のことを思い出してくる。
また、こいつに自分からパンツを見せることになるのか。
なんだか、懐かしくも感じながら、私はジャージを脱いでみせる。
「上下、黒で合わせてるんだね」
にこっと笑いながら、佳奈が言う。
なんでこの女は、いちいち見えた下着の色を報告してくるんだ。
「似合うね。あかりって肌白いから、黒が映える」
一歩引いて、下着姿の全身を視界に捉えながら、佳奈が言ってくる。
「あのね、それはどうでもいいんだよ。浴衣をはやく」
「はあい」
恥ずかしいだろうが、まったく。
なんで、いちいち、私を辱めてくるんだ。
ははっと笑うと、佳奈は浴衣を持って、私に袖を通すよう、促してきた。
「器用なんだね、佳奈」
「うちのおばあちゃん、家で和服、着るからね」
「やってあげるんだ」
「いつもって、わけじゃ、ないけど」
そう言われてみれば、うちのおばあちゃんと違って、佳奈のおばあちゃんは、穏やかで上品な感じだった。
ふんふんと、鼻息を荒くして、私のまわりをぐるぐるしながら、佳奈が浴衣を着せてくれる。
私は、着せ替え人形になったつもりで、両手をあげて、されるがまま。
「ぐえ」
腰紐をぎゅっとされて、思わず声が漏れる。
「苦しい?」
「ん。ちょっと」
佳奈が少し緩めてくれると、ふうっと思わず息を吐いた。
後ろから抱きしめるようにして、帯を巻いてくれる。
首筋に、佳奈の息がかかって、くすぐったい。
「こっち、持ってて」
私は、言われるがまま。
帯を巻きながら、私の前に後ろに、忙しく佳奈が動いてる。
まじめな顔をして、帯を締めることに集中してる。
私は、佳奈の顔を見ながら、かわいいなって思ってる。
抱きしめたいのに、できないでいる。
佳奈は私の後ろに回り込むと、なにやらうんうんとうなりながら、最後の仕上げとばかりに帯を結んでいるのがわかった。
「結構、上手にできた」
「ほんと? うれしい」
私のまわりを、佳奈がくるくる回る。
私はその姿を追いかける。
「よく見えないから、止まってて」
おもしろいので、追いかけ回していると、
「おい」
と、怒られた。
立ち止まると、一歩、二歩、佳奈が後ろに下がって、私の全身を眺めている。
なんだか、恥ずかしい。
「かわいいじゃん。遥香が選んだの? この浴衣」
遥香の名前なんて、いま、聞きたくない。
「まあね」
「さすが、あかりのこと、わかってるね」
「そういうこと言わないで」
つい、大きい声が出てしまった。
佳奈は、「なんで」って顔で驚いている。
「遥香じゃなくて、私を褒めろよ」
冗談を言ってごまかすと、佳奈がおもしろそうに、けらけらと笑った。
「そろそろ、行かなくちゃ。集合時間、遅刻しちゃう」
急に真顔になって、佳奈が言いだした。
「え、やば」
私は慌てて、脱いだ服を拾い集める。
「佳奈は夏祭りの間、どこにいるの?」
Tシャツを脱いで、制服のブラウスを着込んでいる佳奈に訊いてみる。
「私、学園の担当だから、だいたい校庭にいるかなあ」
「神社には行かない?」
「花火がはじまる前には、生徒会のメンバーも自由行動になるとは聞いた」
部屋着のハーフパンツを脱いで、スカートをはこうとしながら、佳奈が話している。
「行くとしたらそれからかなあ」
また、おばあちゃんが買ってきたっていう、でっかいパンツはいてるな。
はき心地は確かによかったけど、いったい、何枚持ってるんだ、それ。
一枚は、私の部屋にあるけれども。
「紺色なんだ。上下の色、合ってないね」
スカートをはきながら、んふって佳奈が笑う。
「言わなくていいよ、それ」
「おまえの真似だよ」
ははっと笑いながら、猛暑だというのに相変わらず、スカートを長くしてはいている。
「なんで色合わせないの?」
「ん。透けるから」
「ああ」
佳奈にしては、正当な理由だったので、私はちょっと感心した。
この女にも、そういう羞恥心とか、あったんだ。
ほぼ、露出狂みたいなもんだと思っていた。
「制服じゃなくてもいいのに」
「浴衣なんて実家から持ってきてないし、一応、生徒会だから」
着替え終わった佳奈が胸を張って言う。
ふたりで部屋を出るとき、私は訊ねてみた。
「夏祭り、誰と過ごす予定なの?」
「なんも決めてないけど」
佳奈は天を仰ぎながら、ほっぺたを指でぽんぽんと叩いた。
「流れ的に、美代子かな」
そう言って、うれしそうに、佳奈はうふって笑っていた。
廊下で佳奈を見送って、私は遥香との待ち合わせの時間まで、部屋で過ごすことにした。
ひとりになると、もやもやして仕方がなかった。




