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絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第三章 倒錯者たち
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第50話 8月 夏祭りの準備2 akari

  あかり akari


 夏祭りの開催が近づいた頃。


 部屋に引きこもって涼んでいると、誰かがドアをノックしてきた。

 佳奈は生徒会の仕事に出かけているはずだ。

 誰だろうと思ってドアを開けると、遥香がいた。


「あれ? もう帰ってきたんだ。え、ちょっと」


 がばっと抱きついてきた遥香に、身体を持ち上げられて、荷物みたいに部屋へ運ばれる。

 ベッドの上に私を下ろすと、遥香はふうっと息を吐いて、


「ただいま」


 と、言って笑った。


「髪、切ってきたんだね」


 切ったというか、もとの長さに整えたというか。

 それ以外は、1か月前と、特に変わっていなかった。


 遥香はうふふっと笑いながら、私の隣に座ると、急に静かになって、私の顔を見つめてきた。

 いつもの、「ください」って顔をしてくるから、私は遥香の肩をつかんで顔を近づけてやる。

 遥香が目を閉じたので、私も目を閉じて、唇を重ねる。


「んん」


 私のからだを抱き寄せると、ベッドに倒れ込みながら、遥香が息を漏らした。


 1か月ぶりだからか、遥香は興奮した様子で、私を力いっぱい、痛いくらいに抱きしめてきた。

 遥香の「好き」っていう気持ちが、それこそ痛いくらい、私に流れ込んでくる。


 私は我慢できなくなって、唇を重ねていることをやめた。


 身体を起こして、ベッドに仰向けになった遥香を見下ろす。

 興奮して、顔を真っ赤にしながら、息を荒げている。


「私で興奮してるんだ? この変態」


 私は遥香を罵って、罪悪感を打ち消そうとする。

 そんなとき、遥香はいつも、ご褒美をもらったみたいな、うれしそうな顔になる。

 この女は、私に冷たくされると、なぜか喜ぶんだ。

 恋人って、そういうものなのか。

 ただの変態なんじゃないのって思わされる瞬間も、あるんだけど。


 そんな遥香が、「もっとください」みたいな顔をしてくるから、私はいたずら心を刺激されてしまう。


「あっ」


 胸に手を当ててやると、遥香が情けない声を漏らした。

 どくどくと、振動が手に伝わってくる。


「どきどきしてるの、わかるよ。清純そうな顔してるくせに、心臓、こんなふうに暴れさせて、なに考えてるのか、言ってごらんよ、遥香」


 瞳をうるませながら、遥香は小さな声で、


「そんなの恥ずかしいです」


 と、私に屈服する姿勢を見せた。


 ははっと笑って、私は満足したから許してやることにした。

 ベッドから下りて、椅子に座り直す。


「終わっちゃった」


 残念そうにつぶやきながら、遥香が身体を起こして、ベッドに座り直した。


「それ、なに入ってるの?」


 遥香が持ってきた、おっきなトートバッグを指さしながら言う。


「んふう」


 気持ちの悪い息を吐いて、遥香がトートバッグの中身を見せようとしてくる。


「浴衣、持ってきたんだ。夏祭り、ふたりで着ようと思って」

「私、浴衣とか着たことない」


 和服みたいなの着たことないから、どうやって着るのかも、よくわからないな。


「いま、合わせてみようよ」


 遥香がそう言って、浴衣を一着取りだし、ベッドの上に置いた。

 私は立ちあがって、それをつかみ取ろうとする。


「制服の上からじゃ、合うかどうかわかんないから」


 遥香に言われて、それもそうかって思い直す。


 私はスカートを下ろすと、ブラウスのボタンに手をかけた。


「あんまり、じろじろ見ないで」

「ご、ごめん」


 着替えをまじまじ見てくるから、注意してみた。

 別に遥香なら見られてもいいんだけど、そんな注目されるとなんかやだ。


「あかりの身長、弟と同じくらいだから、弟を使って丈とか確認したんだ。ちゃんと合うかなあ」

「弟って小学生でしょ?」


 おしゃべりしながら、着替えをする。


「今年、四年生」

「え、やば。私、四年生に並ばれてるんだ。お姉ちゃんといっしょで、将来でっかくなるんだろうねえ」

「でかいって言わないで」


 怒られながら、私は声をだして笑った。


「遥香に、『でかい』は禁句だったわ」


 そうそうって、遥香が頷いている。


 帯を結んでいないから完成形がわからないけれど、丈は問題なさそうだ。


「ぴったりだね。色もすごく似合ってる」


 言いながら、遥香の顔がとろけていく。


「かわいい」


 ほっぺた落ちそうにでもなったのか、両手で頬を支えながら、遥香が言う。

 ちょっと、気持ち悪い。


「きもいよ、遥香」


 思わず、声にだす。

 また、ご褒美もらったみたいな顔してる。


「どうしようもないやつだな、遥香って」


 遥香はえへへって笑って、


「頑張って選んだ甲斐があった」


 と、胸を張った。


 小さなお花の模様が散りばめられた、深い青色の浴衣を遥香は選んでくれた。


「自分だったら、この色は選ばないと思うけど」


 私に冷たい色を合わせたがるのは、もっと冷たくしてってアピールだったりするのかな。

 さすがに考えすぎかと、私は笑った。


「浴衣、はじめてだから、うれしい」

「喜んでくれてよかったあ」


 そう言って、遥香がトートバッグから自分の浴衣を取りだしてみせる。


「私のはこれね」


 白地に赤いお花の模様が散りばめられていた。

 私のとおんなじ模様だから、色違いなのかな。


「おそろい」


 お花の模様を指さして、遥香がうれしそうに笑う。

 私も笑い返してやる。


「帯の結び方とか、よくわかんない」

「前日にでも、私がやってみせてあげるよ。あかりの完成した浴衣姿は、当日の楽しみにとっておきたいから」


 妄想が捗っているのか、むふふって遥香が笑う。


「楽しみだねえ、夏祭り。今年からは花火もやるんだって」


 わくわくしている遥香を見ていると、こっちまで楽しくなってくるみたいだった。


「恋人同士で花火を観るの、夢だったんだあ。こんなに早く叶うなんて思わなかった」


 遥香は心から、楽しみにしているんだってわかる。

 それだけ、遥香の愛情を強く感じさせられた。


 私は、佳奈のことを想うと胸が苦しくて、楽しそうな遥香に、なにも言うことができなかった。

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