第49話 8月 夏祭りの準備1 akari
あかり akari
台風の日、ぬるっと佳奈と仲直りした私は、それから毎日、佳奈の部屋に入り浸っていた。
いっしょにいられることが、うれしかったし、おしゃべりできて楽しかったのもあるけれど、佳奈の部屋は、体感でわかるくらい、私の部屋より涼しかった。
「やっぱ、角部屋って最悪だわ」
佳奈のベッドに我が物顔で寝そべりながら、私は涼しい風を浴びる。
「七海先輩が暑いし寒いよって教えてくれていたのに、なんで選んだの?」
床の上に置いた大きなクッションに、だらしなく身体を預けながら寝そべって、ベッドの上の私を見上げながら、佳奈が言う。
「それは、まあ、なんていうか、あれよ。若気の至りってやつ」
「なんだそれ」
佳奈の隣がそこしか空いてなかったからなんだけど、いざ住んでみたら、別に隣の部屋にする必要はなかったことに気がつかされた。
隣の部屋と繋がっているわけじゃないんだから、ほどほどに近くて、行き来が便利なら、どこの部屋でもいっしょなのだ。
むしろ、隣に佳奈がいると思うと、音が漏れたりしないか心配になる。
毎日、音楽を聴きながら、歌を歌ってるのとか、聞かれていたら、恥ずかしいものがあるし。
佳奈の部屋からだって、なにも聞こえてこないし、壁は薄くないから、大丈夫だとは思っているけれども。
「山岳調査、行きたかったなあ」
「佳奈、そればっかり言うねえ」
台風の接近に伴う悪天候で、そもそも山へ行ける状態ではなかったこともあるけれど、学園がお盆休みになってしまっているから、入山申請そのものができなくなっていた。
台風が通り過ぎ、雨が落ち着いても、まだ警戒は必要とかで、生徒たちには外出禁止令も出ている。
「お盆休み明けたら、行こうよ」
空調の風が直撃して、寒くなってきたので身体を起こす。
なぜか、佳奈も私に合わせるように、身体を起こした。
「生徒会活動あるから行けない」
「夏休みなのに?」
「夏休みだから」
「どういうことよ」
「夏祭り実行委員のお手伝いなんだって」
夏祭りかあ。
遥香がいっしょに行こうって言ってたやつかな。
恋人のくせに、私を島に残して実家へ帰るとか言いだすから、むかついてあんまり話聞いてなかったけど、夏休み最終週にやるんだっけな。
「私、夏祭りなんて行ったことない」
どうせなら、佳奈といっしょに行きたいな。
「え、都会じゃそういうのやらないの?」
「いや、毎年たくさんやってるんだけど、どこも人がすごいから行ってみようって気がしなくって」
いっしょに行く友だちも、いなかったし。
「佳奈は?」
「私も花火打ち上げるような、本格的なのはないかなあ。田舎の神社でやってるちょっとしたお祭りくらいなら、おばあちゃんと行ったことあるけど」
はじめては、佳奈といっしょがいいな。
佳奈もはじめてなら、お互いにはじめての、記憶に残る、いい思い出になりそう。
できれば、ふたりきりがいい。
遥香を連れてくると、こいつ、遥香のことばっかりじろじろ見て、私のこと、ちっとも見なさそうだし。
その場合、浮気になるのかな。
「夏祭り当日も、生徒会の仕事ってあるの?」
「ん。わかんない。生徒会入ったばっかりだから、美代子以外に知り合いもいないし」
佳奈が生徒会なんて、意外だった。
「美代子のコバンザメに過ぎないから、私」
その割に、ずいぶんとうれしそうだ。
なんか妄想して、ひとりで笑ってるし。
二代目寮長に就任した、美代子先輩からお願いされて入ったと言っていたけれど、なんか、あの先輩とやけに距離近いんだよなあ、こいつ。
「あんたたちってさ、絆の時間、なにやってんの?」
思い出し笑いなのか、んふって、佳奈がふきだした。
「ちょっとそれは言えない」
「は?」
私に隠しごとをするなよ。
もういっかい喧嘩してもいいんだぞって顔で、私は佳奈を睨む。
「ひい」
佳奈が悲鳴をあげたので、私は満足して笑った。
「仲良くやってるだけだよ」
なぜか、恥ずかしげな顔で佳奈が言う。
「あかりこそ、なにしてるの? 絆の時間」
「音楽聴いたりとか、人生相談とか、いろいろ。たまに、先輩を脅してストレス解消してる」
「え、こわ」
「ぜんぜん、こわがらないよ、あの人」
「あかりの顔、かわいいから、迫力がないんじゃない?」
「そういう、脅しじゃ、ないんだよ」
笑いながら、ちょっと照れくさい気持ちになる。
佳奈って、しょっちゅう、私のことかわいいって言うよなあ。
どういうつもりで言ってるんだろ。
「さっきから、どこ見てしゃべってんの?」
なんか、目が合わないなって思って訊ねた。
微妙に目線が低いっていうか、胸元よりは高い位置を見てる気がするんだけど。
なにかついているのかと思って、首筋を触ってみるけど、なにもない。
「え、ぼーっとしてただけ」
佳奈はそう言って、仰向けに寝そべってみせる。
「ごまかすな」
私は立ちあがって、佳奈をくすぐってやる。
「きゃあ」
大げさに悲鳴をあげてから、佳奈は笑い転げた。
楽しくなって続けていると、抱きつかれてくるっと反転させられた。
仰向けになって、佳奈の顔を見上げる。
馬乗りにされ、両腕を押さえつけられて、身動きが取れない。
「おまえ、力強い」
文句を言う私の顔を見下ろしながら、佳奈は息を切らしている。
どうやら、暴れ疲れたみたいだ。
からだ、あっついな、こいつ。
佳奈の腕の力が弱まった。
「なにその、キス顔」
眠そうに、急に目がとろんとしたのが、おもしろくて、私は笑った。
「そんな顔してないし」
目が覚めたように、ぱちっと目を開けて、佳奈は私の身体から降りてくれた。
起き上がって、佳奈の顔を覗き込むと、なぜかしょぼんとしていた。
おもしろいから、どんっと小突いてやると、仰け反りながら、ふふふっと佳奈が笑う。
「うわあ」
がばって佳奈が覆い被さってきて、私は情けない悲鳴をあげた。
そこからくすぐりがはじまって、私はお腹が痛くなるまで笑わせられるのだった。
仲直りしたというのに、外へ遊びに行くこともできなくて、体力があり余っていた私たちは、そうやって、ふたりでじゃれ合いながら、お盆休みを過ごしていた。
◇
お盆休みが明け、島に人が戻ってくると、夏祭りの準備がはじまるようだった。
佳奈は朝早くに、生徒会として手伝いに出ていく。
学園の下にある、この島で唯一の神社が会場になるようだから、私は佳奈を冷やかしに行こうと、昼過ぎに女子寮を出た。
強い日差しが照りつける中、坂道を歩く。
鳥居をくぐると、あのぶつかりおじさんが中心となって、島民たちになにやら指示を飛ばしている光景が目に映る。
直人先生や、葵先輩の姿もあった。
どうやら、この夏祭りというイベントは、この島の伝統的なイベントであって、学園はそれに便乗しているだけみたいだ。
学園サイドから見れば、島に溶け込むため、いっしょになって盛り上げようという、そんな趣旨の行事なのだろう。
生徒たちは、出店や会場の設営作業を手伝っているようなので、境内を歩きながら、佳奈の姿を探してみる。
遠くのほうに、美代子先輩の後ろをついてまわる、コバンザメがいた。
「あんまり役に立ってなさそう」
美代子先輩の顔を見上げて、ぺちゃくちゃとおしゃべりしているだけで、手が動いていない。
美代子先輩も、美代子先輩で、佳奈とおしゃべりすることに夢中になって、ときどき手が止まっている。
なんか、仲良くじゃれ合ってるっていうか、佳奈が美代子先輩に引っ叩かれたりしているときもあって、叩かれた佳奈もにたにたしているし、仕事中になにやってんだこいつら感がすごい。
なんなら、ほかの生徒会の子たちも、あのふたりには関わらないようにしているっぽい。
機会があれば、なにか手伝いでもしてやろうかとも考えていたけれど、力仕事ばっかりみたいなので、私は遠慮しておくことにした。
台風が通り過ぎたら、一気に夏本番っていうか、夏が本気を出してきやがったなって感じで、特に日中は、外になんかいられたもんじゃない。
私はコバンザメの観察をあきらめて、涼しい部屋に引きこもることにした。




