表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第一章 流刑者たち
5/27

第5話 4月 離島へ向かう連絡船の上2 akari

  あかり akari


「佳奈はどうして、離島の学園を選んだの?」


 デッキの上に据え付けられた、日陰のベンチに並んで座ると、私は佳奈に訊ねた。


 あたり一面、海しか見えなくなって、景色にも飽きたから、私たちは座っておしゃべりすることにしたのだった。


「おばあちゃんに楽をさせてあげたかったから」

「へー」

「おばあちゃんにとっては、二回目の子育てだから、もう体力的にしんどいんだってさ」

「その、二回目の子育てってワード、うちのおばあちゃんもよく言うわ」


 ふたりで顔を見合わせて、私たちは同時に笑った。

 私は気になっていたことを訊ねてみる。


「佳奈って、おばあちゃんに育てられたんだね」

「ん。そうだよ」


 いまさら、なに言ってんだって顔してた。


「あかりもでしょ?」

「まあね」


 おばあちゃんといっしょに来てた時点で、お互いわかっていたか。


「ほかに家族は? うちは小さい頃、お母さんがいたけどいなくなった」


 かわいそうとか、思われたくないし、家族のことなんか、誰にも話したことないけれど、佳奈だったらなにも気にすることないなって思えたから、私は自然とそう訊ねた。


「お母さんは私を産んですぐ死んじゃったんだって。お父さんは外国で働いてるから、物心ついてから、ずっとおばあちゃんとふたり」

「おじいちゃんは?」

「ずっと昔に病気で亡くなったらしい」

「うちもそうだわ」

「あかりのお父さんは?」


 お父さんのことを訊かれて、私は思わず、ぷっと笑った。


「クズ」


 お父さんについて知っている、唯一の情報を教えてやった。


 佳奈は、げらげら笑っている。

 私はうれしくなった。


「おばあちゃんも、お母さんも、お父さんについてはそれしか言わない。女関係がだらしなくて、いろいろやばい人だったらしい」

「じゃあ、いなくてよかったね」

「まったくだわ。佳奈のとこは外国で働いてるなんて、すごいお父さんだね」

「ん。まあね」


 なんか、含みのある反応だった。

 あんまり、会ったことはないのかな。


「佳奈のお母さんは、どんな人だったの?」


 会ったこともない親について、佳奈がどんなことを知っているのか、私も知りたくて訊ねた。


「なんかね、じっとしてられない人だったらしい」

「なんだそれ」


 私は、げらげらと笑った。


「そういうところ、あんたとそっくりだって、おばあちゃんがよく言うんだよ」


 なるほど、と私は頷いた。


「私も似たようなの、よく言われるわ。そういう気が強くてすぐ言い返してくるところ、おまえのお母さんにそっくりだよって」


 んふっと佳奈が笑いをこらえた。


「だから私は言い返すんだよ。それはおばあちゃんからの遺伝だって」


 私が言うと、佳奈が手を叩いて笑いはじめた。


「うちのおばあちゃんは、お母さんとは性格が違いそうだなあ。おばあちゃん、静かで地蔵みたいになってることのほうが多いから。人知れず逝ってるんじゃないかと心配になるくらいには、じっとしてる」


 私も手を叩いて笑う。


 家族のことをこんなに笑って話せるやつ、はじめてだった。


「おばあちゃんに楽をさせたいから、家を出て全寮制の高校に入ろうなんて、佳奈はおばあちゃん想いだね。うちとは、えらい違い」


 私が褒めると、佳奈は首を横に振った。


「おばあちゃんのこと、私は絶対に許さないけどね」


 なんでかわからなかったけれど、私もいっしょだなって思うと、うれしくなった。


 私と佳奈って、すごく似ている。

 背格好も似ているし、なんか生き別れの姉妹みたい。


「そういう、あかりはどうして?」

「ん。おばあちゃんが勝手に申し込んだ。厄介払いってやつ。島流しの刑に処された」


 ぎゃははって、でっかい声で佳奈が笑った。


「落ちればいいと思って、いい加減に受験したのに、まさか受かるとは思わなかったわ」


 笑っていた佳奈が、にやにやしながら言う。


「自分の名前、書けたんだね」


 私は舌打ちした。


「おまえ、さっきから馬鹿にしてんだろ、私を」


 肩を小突いてやると、佳奈はあひゃあひゃ言いながら、のけぞってみせた。

 お返しに、私もなんか意地悪なこと言ってやろうと思って、彼女の姿を眺める。


「その髪型、おばあちゃんにやってもらってるでしょう」

「え、よくわかったね」


 佳奈が驚いて口を開けた。


 一見してボブみたいに見えるけど、たぶん、伸びてきたからそうなったんだと私にはわかる。


 私も小さい頃、おばあちゃんにやられてたから。


「おかっぱの刑に処されたんでしょう」


 うはっと声をあげて、佳奈が手を叩いて笑いだした。


「正解だけど、その処されるっていうの、ツボなんだわ」

「そこで笑ってたの?」

「高校生になったし、私もあかりくらいまで伸ばしたい。あかりみたいに、かわいくなりたいから」


 佳奈だって、かわいい顔してるけどなあ。

 ファッションは、絶妙にダサいけど。


 おかっぱが伸びただけの髪型もそうだけど、制服のスカートを、昔の白黒写真に出てくる女学生みたいに、膝下、ふくらはぎの長さではいてるのも、私的にはちょっとなあ。


 女子高生なんだし、もっと短くしてもいいのに。


 所詮、好みの問題で正解はないから、ファッションについては言わないでおく。


「その長さから胸のあたりまでって言ったら、一年以上はかかりそうだね」


 気の長い話だ。


「わかめいっぱい食べたらいいかな。島だし、海岸でとれそう」

「自然界から得ようとするのやめな」


 きちんとした流通経路に乗ってない食べ物なんて危ないでしょ。


「え、山で山菜とか採って帰ったら、おばあちゃん喜ぶよ」

「あ、そういう世界観なんだ」


 田舎では普通なのかな。


「おっと」


 笑っていた佳奈が、抱えていたトートバッグを落としそうになった。


「それ、なに入ってるの?」

「え、手紙だけど」

「ん? なんでそんなの抱えてるの?」

「見る?」


 人が書いた手紙なんてと思ったけれど、なんか、佳奈のことをもっと知りたくて、私はトートバッグを受け取った。


 封筒の束が、輪ゴムでまとめられていた。

 輪ゴムを外して、ぱらぱらと封筒を眺めてみる。

 どれも日付が書かれているだけで、宛名や送り先は書かれていなかった。


 封はされていない。

 ひとつ手にとって、中身をあらためてみる。

 当たり前だけど、紙が折りたたまれて入っていた。


「読んでもいい?」


 一応、許可を得てみる。


「ん。いいよ」


 あっさり許可してくれた。

 あんまりこの手紙に執着がなさそうだった。


『お父さんへ』


 そんな書き出しではじまる、いかにも子どもが書いた手紙だった。


 外国で暮らすお父さんに宛てて、幼い佳奈が書いた手紙なのだと、すぐにわかった。

 紙面の半分ほどが、下手くそな絵で埋め尽くされている。


 山で遊んでいるような子どもの絵。

 山の大きさに対して、子どもが大きすぎるから、これじゃ子どもというより巨人だけど。


 文面はなんてことない、日常のひとコマを切り取ったような内容だった。

 私は元気でやっているから、お父さんもお仕事頑張ってねっていう、そんな手紙だった。


『会いたいよ』


 そう言いたいけど、そうは言えない。

 そんな気持ちが表現された手紙だった。


 手紙を封筒に戻して、輪ゴムをかける。


「いい手紙だね。よく書けてるし、子どもにしては絵も上手」


 そう言って、私は佳奈にトートバッグを返した。


「あかりも手紙書いたことある?」


 思えば、誰もがスマホを持っているような時代に、紙の手紙を書く機会なんて、普通はあるもんじゃないのかなって、そこで気がついた。


「あるよ」


 私が答えると、佳奈はなにも言わずに、にこっと笑い返してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ